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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>ひと・流行・話題> 記事 ひと・流行・話題 永井路子さんが新作「岩倉具視」 構想40年2008年03月20日 歴史小説家永井路子さん(82)の新作『岩倉具視(いわくら・ともみ) 言葉の皮を剥(む)きながら』(文芸春秋)が出た。維新の元勲に名を連ねながら孝明天皇毒殺を計った悪党説まであった具視の実像に迫る。構想40年の書き下ろし力作だが、「これにて終了。遺言状のつもりで書いた」と永井さんはいう。
1人の英雄が歴史を動かすのではない、が持論。64年度直木賞受賞作『炎環』ほか一連の作品で、脇役の野望や生き方を通してもう一つの歴史を描いてきた。 「私たちの世代は、敗戦で、それまでの楠木正成(くすのき・まさしげ)は大忠臣、足利尊氏は大逆賊とかいう歴史観から自由になった。その中で、正史がまつりあげた人間じゃない存在のほうが面白いと考えるようになった」 そうした歴史観でみると「具視は絶品、前から書きたかった」。直木賞を受賞したとき次作は何かと問われて、岩倉具視と答えた。だがそのころ手持ちの文献は「古かったし、維新の史料は、ある色に染めあげられているものが多く、吟味が必要だった」。 岩倉家から貴重な関係書の提供を受けるなどして史料を蓄積。丹念に検討する一方で、歴史学者とは違う物書きの方法を探した。 「なぜこのように書かれているのか。史料然とした言葉の裏の“ほんとう”を探りながら書く、言葉の皮を剥くとしか言えない方法をみつけるまでに時間がかかった」 「剥く」ことで従来とは違う具視像が見えてきた。米国に開国を迫られたころ、幕府の開港許可願いを認める案を出した九条関白に反発した公家88人が宮中に押しかけた事件があった。具視は扇動者とされてきたが、「下級公家の彼はあの場面では使い走り」。 戦後、学会論争にまでなった孝明天皇毒殺説をも覆す。「天皇の愛人だった妹を使ってヒ素を盛ったという。だけど、具視には天皇を殺す理由がない。妹も当時、天皇のそばにいない」 滑稽(こっけい)なほどの自信と上昇志向の持ち主。清貧とはほど遠い。だが悪党ではない。「具視は先見の明もあった」。政争に敗れ蟄居(ちっきょ)した具視が、政権交代近しを感じつつ歯ぎしりながら意見書を書きまくる描写など、激動の時代を写してスリリングだ。 昨年末、永井さんは心臓の冠動脈拡張手術を受けた。「3日後には病室でゲラに手を入れていた」。明晰(めいせき)で元気そうだ。だが、「ほんとにこれが最後の仕事」。 「80歳でも現役とか、達者な老人がもちあげられるけど、これこそ言葉の皮を剥くならば、よ。年金支給年齢がもっと高くなるような流れが出来かねない。元気じゃない多数派の悲しみに目を向けて欲しい」 「庶民の歴史は言葉に踊らされる、そのくり返しだった。だから言葉の皮を剥いてみよう、と。それがこの本に託した私の遺言」
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