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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>ひと・流行・話題> 記事 ひと・流行・話題 綾辻行人さん 力抜けた「まったり怪談」刊行2008年03月25日 本格ミステリーとホラーの両輪を自在に操る綾辻行人(あやつじ・ゆきと)さんが、怪奇小説集『深泥丘奇談(みどろがおかきだん)』(メディアファクトリー)を刊行した。論理と仕掛け優先の作風から一転、私小説風の“まったり系”怪談だ。昨年、作家活動20年を迎えたが、「この肩の力が抜けた感じ、経験がない」という。 『深泥丘奇談』の主人公は、綾辻さん本人とおぼしきミステリー作家。舞台も本人が住む京都市某所がモデルになっている。 検査入院した病院で幻聴におびえる「顔」、歯科治療の生理的恐怖にユーモアがにじむ「サムザムシ」など、夢野久作や内田百けん(「けん」は門がまえの中に月)をほうふつさせる9編。 共通するのは、主人公の記憶力の弱さ。妻から「知らなかったの?」とあきれられる。綾辻さんも、妻で作家の小野不由美さんから同じことを言われているという。 「京都で生まれ育ったが、プライドなどない。名所旧跡にも行かないし、祇園祭も見ない。観光客の方が詳しいでしょう」 そんな変わった京都人も「大文字」で知られる五山の送り火だけは特別だという。「1年が過ぎたなあ、と感慨にふけることができる」。幻視のような送り火が点灯していく「六山の夜」も収録される。 本作の舞台回しは病院。ウグイス色の眼帯をつけた医師と、手首に包帯を巻いた看護師が待っている。普通に診察するのが、また、奇妙なずれを生む。 従来のカッチリと作り上げた本格ミステリーの中でも、論理的解決からはみだす余談を楽しんできた。だが「ここまで謎を謎のまま放り出すのは初めて」。 どんなジャンルであろうと、基本になるのは「体が浮いた小説」という。「現実と取っ組み合うのではなく、そのくびきから放たれたものを書きたい。中井英夫の系譜です」 また「恐怖を描く際に重要なのは美学」だという。「グロテスクな場面でも、気持ち悪いだけでなく、離れてみると絵になる、視覚的に決まっているというこだわりは持って書いた」 綾辻さんは京都大学推理小説研究会の出身。ここから多くの仲間がプロの作家として活躍している。 そして今、森見登美彦さんや万城目学さんら大学の後輩が注目を集める。「みんな達者ですね。先輩作家の影響をうまく受け、作品を自分のものにしている。つながっていく頼もしさを感じる」 本文を色刷りにしたり凹凸をつけたりした凝った装丁は祖父江慎さん。カバーを取って表紙に触れてみると面白い。
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