ここから本文エリア

RSS

現在位置:asahi.com>BOOK>ひと・流行・話題> 記事

ひと・流行・話題

作家・黒川創さんが長編「かもめの日」を発表

2008年04月05日

 作家の黒川創さんが、たくらみに満ちた新作長編『かもめの日』(新潮社)を発表した。ストーリーの核をなす主人公は登場せず、さまざまな人物のさまざまなエピソードが、いつしか連鎖をなしてゆく一日を描いた実験的小説だ。冒頭では宇宙からの視点が物語の導入を担う。「地球が一周する〈24時間〉が主人公かもしれません」という黒川さんに狙いを聞いた。

 〈朝は、誰の上にも、適当にやってくる〉という文章から、現代の東京に視点が降りる。折り畳みナイフを隠し持つ少女、気象観測をする研究所員、FMラジオ局で働くAD、番組の進行役、アナウンサー、朗読ドラマに台本を寄せる作家らの一日の風景がつづられる。次第に、それらの人物が複数の接点を持つ関係にあることが明らかになる。さらには人工衛星、天気予報、チェーホフの挿話がゆるやかな関連を帯びてくる。

 「小説には一人称、三人称などの視点があるが、世界をどうやって語るかに関心がありました。自分なりの落とし前をつけて語り口を成立させ、小説世界を支えないといけない。そこで作者が語る体裁ではなく、非人称の複数視点にして、その外側に人工衛星のような視点を置いた」と黒川さんは語る。

 「人物は作者の操り人形にならないよう、目の動き、心の動きなどが自然であるように丁寧に書きたいと思った。多くの人物が交錯するが、普通の人の日常もこれくらい複雑な接点があるもの。また、通信やケータイにより、離れているようでつながっている。人物たちが、モザイクみたいに一つの織物をなしていくように書きました」

 やがて、作家の妻が最近、急死した事件や、少女がかつてADに暴行された過去があって報復の機会を狙っていることなど、隠されていたドラマが巧妙に姿を見せ始める。

 「人間にとって世界は都合よく動いてくれない。でも、その悔しさや孤独感を景色で伝えることはできる。本人が一生懸命生きていることで、ある程度の助力に出会い、次の人生に手をかけるまでを描けたらと思ったんです」

 表題は、1963年に女性初の宇宙飛行士となった旧ソ連のテレシコワのコードネーム「チャイカ(かもめ)」とチェーホフの戯曲に由来する。宇宙からの俯瞰(ふかん)に加え、ラジオ局のあるビルの35階、そして地べたの3層に、多彩な人間模様を立体的に映し出してみせる。俯瞰の手法は、芥川賞と三島賞の候補になった『もどろき』(01年)でも採り入れている。

 「自分を突き放すことは、救いにもなる。距離がないとユーモアもロマンも生まれない。全部わからないのが人生だとしても、距離によって見えてくるものから、生きる工夫も生まれてくるはずです」(小山内伸)

ここから広告です

広告終わり

このページのトップに戻る