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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>ひと・流行・話題> 記事 ひと・流行・話題 絵本作家の佐野洋子さん エッセー「シズコさん」刊行2008年05月03日 ■好きになれなかった母さんに ごめんなさいとありがとう 絵本作家の佐野洋子さんが母との日々をつづったエッセー『シズコさん』(新潮社)を出した。〈一度も好きじゃなかった〉といいつつ、ユーモアと少し毒っ気のある語り口からは、母への切なくて温かい思いがにじみでてくる。
手をつなごうとして振り払われ、「二度と手をつながない」と決意したのが4歳の頃。〈私と母さんのきつい関係〉の始まりという。料理上手でもてなし上手。でも子供が何を言っても「そんな事ないわよ」とたたきつけた。 06年夏、93歳で亡くなった。回想のしっかりとした母と、老人ホームで自分も娘もわからなくなった母が交互に描かれる。〈母さんは一生誰にも「ありがとう」と「ごめんなさい」を云(い)わない人〉。それが、認知症の症状が現れて〈ごめんなさいとありがとうのバケツ〉をひっくり返したようになった。 素直に「ごめんね、母さん」と言えたのはその後のこと。「仲の良い親子もいる。でも仲の悪いのもたくさんいるのよね。私と母は解決できない関係みたいに思っていた。母がぼけて、私は救われたところがある」 戦後父が亡くなり、専業主婦だった母は働いて4人の子供を大学に入れた。長女の佐野さんは美大に進み、絵本作家に。『100万回生きたねこ』などいくつもの作品が読み継がれている。母は、娘の仕事に一切、口出ししなかった。「とにかく一人で食ってけ、としか言わなかった。自分が悪く書かれても何も言わない。晩年になって、あんた仕事は運がいいわね、って言ったことがあったわね」と笑う。 〈私も行く。ありがとう。すぐ行くからね〉。こんな言葉でエッセーは終わる。6月には70歳になる。がんが転移して医師から余命2年と言われ、それから1年が過ぎた。 「私、がんがストレスになってないのね。昔から死ぬことがぜんっぜん怖くない。目の前で家族がごろごろ死んでいったのを見てたから。望んでも望まなくてもそうなっていくってわかってたから。自分の死はわかんないじゃん。たぶん命って、自分のものじゃなくて、周りの人のためのものだと思う」 いまの楽しみは「寝っ転がって本読んで、寝っ転がってテレビ見て」。それでいいのだそう。「くだらない番組でも1カ所びっくりするところがあればおもしろい。人生なんてほとんど無駄に過ごしているわけじゃん。その中でちょっとびっくりすることがあれば大もうけみたいなもの」。これが格好良く、潔く、生きる秘密なのかもしれない。(中村真理子)
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