2008年5月13日
川上弘美さんの新刊『風花(かざはな)』(集英社)は33歳の専業主婦のゆりが、夫に恋人がいると知って、立ちすくみ、迷い、考え、少しずつ成長してゆく小説。人はみな生まれて死んでゆく途中にいて、常に変化していくのだなと、しみじみ思う長編だ。「新しい道をみつけることの困難さを描いたみたい」と語る川上さんにきいた。(吉村千彰)
■人間関係築く「普遍」描く
結婚して7年。きちんと向き合うことなく離婚をにおわせる夫に対し、のゆりはどうしたいのかわからず、怒ることもできない。旅行したり資格を取ったり、働いてみたりして感情を取り戻そうとする。だが、解決はやすやすとは訪れない。「いろいろな可能性を考え、相手をおもんぱかってぐずぐずとしてしまう人。人間関係をどうつくっていいのか分からないところから書きたかった」
物語は、結婚後ほとんど家を離れたことがなかったのゆりが、新幹線で温泉へ向かうことから始まる。川上さんは子育て中、授乳の合間に思い立って電車に乗り、繁華街で本をまとめ買いしたことがある。「距離を移動するだけで、何かを消費したり得たりする。遠くに行くことは、うれしいこと。本を読むことも旅に似ていますね」
『夜の公園』(中央公論新社)や『真鶴』(文芸春秋)など、いろんな結婚や恋愛の形にふれてきた。だが、「人が自分以外の人や何かとであった時に生まれる化学反応のようなものを書いてきた」という。
今回は一組の夫婦に焦点をあて、ゆっくりと反応を追った。触媒になる脇役は気楽な叔父さんや女っぽくて元気な先輩、マイペースな同僚ら。摩擦を避け、説教もせず答えも要求しない人たち。現代の気分がにじむようだが、描かれるのは人が人と関係を築く過程という普遍だ。「過程の瞬間瞬間は、きっと一つではなくいろんな気持ちが入り交じっている。すべては分からないから、少しでも書きたい」
94年のデビュー当時は、人名はカタカナで地名も出てこなかった。変化は書き続けることで生まれる。「堂々巡りの考えが書くことで整理され、次へいける。出てくるものを骨惜しみしないで書いていきたい」
本書のタイトルは季語。俳句のほか詩作も始め、一語一語の歴史や意味と向き合う表現に取り組む。一行のむだもない小説は、満身の力をこめる逆上がりのように、一作一作、生み出されるのだろう。
著者:川上 弘美
出版社:集英社 価格:¥ 1,470
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