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アラーキー 愛猫チロを語る「愛する者を失うということ」

2010年7月7日

 天才アラーキーこと、写真家の荒木経惟(のぶよし)さん(70)が飼っていたチロは、写真集『愛(いと)しのチロ』などを通し、広く知られた猫だった。今年3月2日に、人間なら100歳を超えるかという22歳で大往生。1990年に妻の陽子さんががんで早世した際も、ともに乗り越えた仲だった。自身も一昨年に前立腺がんが見つかった荒木さんが、現在の心境を語った。

    ◇

 なんだかんだ言って、女の人もいっぱい撮ってきたけど、ちゃんと気持ちが入って一番シャッターを押したのは、チロちゃんだったな。

 ずっとさあ、そばにいるんだもん。俺(おれ)の場合、身近で愛(いと)おしいものを撮るから。最高の被写体だったな。

 猫はそんなに好きじゃなかったんだ。でもヨーコが好きでね。ある日、埼玉の春日部のおばあちゃんの家から、子猫を連れてきちゃった。寝ころんで転がって、つまりネコロリコロリされて、もう一目惚(ぼ)れ。それがチロちゃん。

 ちびっこの女の子だけど、鳥やヤモリもつかまえたし、けんかも強くて。でも、俺がヨコになるとすぐに上にのってくる。昼間っから妻はのってこないじゃない。どんどん好きになったよ。

 でもヨーコが、病気になっちゃって。彼女の入院で一番まいっているときも、チロちゃんが家の中を行ったり来たりして動きがあって救われたんだ。ヨーコが楽しみにしていたチロちゃんの写真集は間に合わなかったけど、なんとか見本の一冊を彼女の棺にいれることはできたんだ。

 あれから20年間は、チロちゃんとの生活だったね。

 最初のころはさあ、いなくなったヨーコのベッドの上にチロちゃんが座ったりするんだよ。帰ってこないニャア、と思っているのか、ヨーコのかわりにいてくれるのか。これはまいったね。

 俺は、すごく愛されたという感じがあるし、向こうもそう感じてくれたと思う。自分の家のバルコニーで空の写真を撮っているときも、いつも足元にいてさあ、二人で撮っている感じだったね。

 ずっと元気に見えたんだけど、もしかしたら俺とおなじでカラ元気だったのかもしれない。寝込んでからも、さあ撮るぞっていうと、立つんだよ。たまんないよね。

 お葬式は、ちょうど桃の節句。お棺に桃の花を入れて、いい死に顔だから撮ったんだ。無常感にひかれて。でも後ろめたい感じもするんだ。その半面、妙にざわめくんだよね。チロちゃんは、「いつまで撮るんだ」って思っていたかもしれないね。

 写真は、撮ったものが永遠になる一方、忘れさせてもくれる。撮ることで、悲しみをあいまいなものにしている。カメラって、気持ちをだます機械じゃない?

 最後の半年をまとめた写真集が出来てね。ヨーコとの新婚旅行と彼女の死を撮ったのが『センチメンタルな旅 冬の旅』で、今度は『センチメンタルな旅 春の旅』。

 今は撮っていて、構図が決まりすぎるな、というぐらい決まる。写真は、愛する者を失うほど、切れ味が出てくるんだ。親父(おやじ)の死、母の死、妻の死、チロちゃんの死。

 写真家は、撮るのをやめると死に近づくんじゃないの。今は体調わるいけど、もうちょっと生きていたいな、という思いが強まってきて撮っている。チロちゃんがいなくなってそう感じてるんだね。

 今も夜、寝室のドアを開けておくことがあるんだ。チロちゃんが入ってくるはずないんだけどさ。気持ちだね。

    ◇

 写真展「センチメンタルな旅 春の旅」は、18日まで東京都港区南青山5の5の3のラットホールギャラリー(03・6419・3581)で。写真集も同ギャラリーから。

表紙画像

センチメンタルな旅・冬の旅

著者:荒木 経惟

出版社:新潮社   価格:¥ 3,150

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