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算数 大嫌いだったけど…

2010年10月18日

写真:国立情報学研究所の新井紀子教授拡大国立情報学研究所の新井紀子教授

 「算数を勉強して何の役に立つんだ!」。そう叫んだ経験がある人は少なくないのではないでしょうか。いま数学を研究や仕事で使っている大人たちの中には、実は子どもの頃は「算数が大嫌いだった」という人がいます。なのになぜ、その後好きになったのでしょう? 「元算数嫌い」の人たちに、算数の楽しさや学ぶ意義を聞いてみました。

■ロケットの動き解けた!

 吉沢良典さん(28)は東京大学で航空宇宙工学を学ぶ院生です。ロケットや人工衛星が大気圏に突入する時に高温になるんですが、その熱からロケットを守る技術を研究しています。

 「高1くらいまで数学は嫌いでした。というか、もともと好きな人っているんですかねえ?」。ロケットの研究をしている人でもそうだったなんて、勇気が出ませんか?

 なぜ嫌だったかというと、やっぱり「やってることの意味が分からなかった」から。たとえば分数はなぜ必要なのか。足したり引いたりすることに何の意味があるのか。「よく分からないまま、計算だけは大量にやらされるというのが嫌でした」

 変わったのは、高2で物理を学んだ時。小学生の頃からロケットが大好きだった吉沢さんは物理の授業が好きでした。物が飛んでいったり落ちたりする動きを計算する時は数学を使います。そのころやっと小学生の頃やっていた計算にどんな意味があったのか分かったそうです。

 いま、学習塾で算数を教えています。数日に一回は「何でやんなきゃいけないの」と恨み言を言われます。「無理ないよなあ」と思いつつ、その子が好きなものに引きつけて、算数がどう使われているかを教えているそうです。

■知識使うと面白くなる

 「でも、ロケットの研究をするなんて、もともと頭が良かったんじゃないの」って?

 では次の人を紹介します。同じく宇宙関係で、人工衛星の研究をしている南部陽介さん(27)。大阪府立大で助教をしています。小中学生の頃の算数・数学の成績はずっと「1」か「2」。「学校の授業って、決まり切ったことをマニュアル通りに動かされているみたいで大嫌い」。公式は何一つ覚えず、ブロックやRPGゲームにはまっていました。

 その後、宇宙を舞台にした米国のSFドラマ「スタートレック」に夢中になった南部さんは、高校生の時、将来は宇宙の研究をしようと心に決めます。そのために数学の復習を始めました。

 夢のためにしぶしぶ始めた勉強でしたが、すぐに数の世界の奥深さにはまります。学校の授業は相変わらず嫌いでしたが、自分で参考書や数学の専門書を買って読みふけっていたそうです。

 何が楽しかったのでしょう。「数学は美しいんですよ」。例えば、目の前で起きている出来事を数式だけでシンプルに表現できる時、「すごい」と感動するそうです。う〜ん。わかりますか……?

 南部さんは9月、東大の大学院時代の同級生2人と子ども向けの算数練習帳「東大生が考えた魔法の算数ノート なっとQ〜」(太田あや編、小学館)を出版しました。

 本では一見算数とは思えないような問題が登場します。例えば塗り絵。隣り合う部分の色が同じにならないように塗り分けます。これは実は平面に書かれたどんな図形も4色で塗り分けられるという「4色定理」を使ったもの。ほかにも「地球の時速はどれくらい?」「お使いのおつりでお菓子をゲットする方法」など楽しい問題がたくさん載っています。

 「例えば音楽は、楽譜が読めないと楽器は弾けないけど、聞いて楽しむことはできる。算数も細かい計算は分からなくても、まずは楽しいというイメージを持ってくれれば」

 問題を解くだけでなく、自分でも問題を作る構成にしたのも大きなポイント。解くのは親です。知識は、誰かに教えることでより理解が深まります。「学校や塾では教わるばかりで、知識を使う喜びを知らないことも算数嫌いの一因では、と考えたんです」

■説明する力養うために

 最後はなんと、元数学嫌いの数学者です。国立情報学研究所の新井紀子教授(数理論理学)は、数学が嫌いなあまり、大学受験が終わった翌日に数学の教科書を全部燃やしたそうです。

 「私は計算が苦手な上に、おっちょこちょい。計算間違いがすごく多くて点数が悪かった。小学生の頃は『苦手だな』でしたが、中学生になると『嫌い』になりました。学校では、考え方が合っていても答えが違えば評価されにくい」

 大学は文系の学部に進みます。

 教科書を燃やしたのに、一般教養の授業でまた数学に出会います。「大学では、計算じゃなくて考え方の方が大事だった。ものごとの仕組みを理解する方法を学ぶのが数学だと分かったら、好きになりました。ほっとしましたね」

 数学に必要なのは計算ではなく論理、と言います。

 「子どもの頃から『つべこべ言う』のは得意だったかも。みんなと同じことをできない子は泣くか説明するかしかない。『なぜ酢豚が嫌いか』とかね。暗記力もなかったから全部論理で何とかしました。九九は覚えられないから『7の段は7ずつ増える』とか」

 新井さんは、子ども向けに「ハッピーになれる算数」「生き抜くための数学入門」という本を書いています。「かけ算を宇宙人に教えよう」など、算数の考え方を分かりやすく説明しています。

 「『なんで算数をやらなきゃいけないの』と子どもが聞くのは『社会のどこで使われているの』という意味じゃないと思う。携帯電話の技術に使っていると言えば『それはその研究が好きな人がやればいい』となる。そうじゃなくて、『いま授業でやっていることは何の意味があるのか』と聞いていると思う」

 で、なんて答えますか?

 「泣いたり騒いだりせずに自分を説明し、相手を説得するには論理しかない。算数・数学はそれを学ぶものです。それに、ちゃんと説明できるようになると自信つきますよ」(原田朱美)

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