2011年5月2日
奥田英朗さんの初めての新聞連載小説「沈黙の町で」が7日から、朝日新聞朝刊で始まる。小さな町で起きた1人の中学生の死をめぐり、町にひろがる波紋を描く。被害者や加害者とされた子の家族、学校、警察などさまざまな視点から描き出される群像小説で、地方都市の精神風土に迫る。
奥田さんの群像小説の代表作には、長編サスペンス『オリンピックの身代金』(吉川英治文学賞)がある。一方、破天荒な精神科医・伊良部が活躍する『空中ブランコ』(直木賞)などのユーモア小説も得意とする。「真面目なことにはうそが多いと思います。群像劇という形式であれば、建前の真実ではなく、表も裏も見せて、全体を提示できる。そうでなければ、ぷっと笑ってしまうようなことに託して、人間の真実を見せようと思っています」
「沈黙の町で」は、いじめや少年犯罪などの社会問題と向き合う。「被害者にも加害者にも、傍観者にも言い分がある。それぞれをフェアに描きながら、対立を嫌がる小さな町で事件をもみ消していくような力がどうかかっていくか、それがどのような意識に支えられているのかを考えたい」
これまでは月刊の小説誌での連載が多く、新聞連載は今回が初めてとなる。
「1回の分量が短いので、ことば選びが難しい。くどくどと書くのが好きだったのですが、ぽーんと一行で書いて、あとは読者がイメージを膨らませるようにするのがいいのかな」
奥田さんは若いころに読んだジェフリー・アーチャーの『ケインとアベル』を再読したとき驚いた経験があるという。「作家になって読み返したら、感動して印象深かった場面がほんの数行しか書かれていませんでした。その数行が自分のなかでは、何ページ分にも広がっていたのです。小説は作家と読者の共同作業で成立するものなので、連載途中で多くの読者にどう読まれるか緊張しています」
冒頭の数章を書き出したとき、大震災が発生、筆が止まった。「しばらくは被災地の映像をぼんやり眺めるばかりでした。復旧が進み、それぞれの人が日常にもどり、それでも心の傷が癒えないというときに小説の出番がある。この物語にもなんらかの希望を持たせられたらいいと思います」
さし絵はイラストレーターの唐仁原教久さんが担当する。都会的洗練とどこか懐かしさをあわせ持つ作風で、奥田さんも「毎日楽しみです」と話す。(加藤修)
著者:奥田 英朗
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