
[文]大上朝美
[掲載]2011年2月20日
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■自分のために「背水の本」
手に取って、まずこれはメールアートと思うだろう。差出人は東京都八王子市の多摩美術大学教授で詩人の平出隆さんだ。ドイツから直輸入という白い重ねの封筒にタイトルと著者名、住所、イラストが印刷されており、あて先のシールが貼ってある。切手には消印が押され、通常の郵便で届く。中には8ページの、白いつやのある紙に印刷された作品。字の色や配置、イラストなど、デザインは厳密に考え抜かれ、美しい。しかしこれはまた、本でもあるのだ。
平出さんが昨秋から始めた極小出版の試み「via wwalnuts」叢書(そうしょ)は、封筒が表紙カバーに当たる。本である証明は、封緘(ふうかん)シールに印刷されたISBNコードとそのバーコード。日本図書コード管理センターに登録・申請すれば取得できる(有料)。そしてこの叢書はISBNコードを持つことによって、アマゾンを通しても注文を受けている。「個人雑誌ではなく、商業出版です」と、平出さんはほほえむのである。
もともと現代詩の本は、部数はきわめて少ないが「濃い」読者がいて、装丁や印刷に凝った美しい本が多い。「詩は、電子書籍には行かないでしょう。情報でもストーリーでもないから」と平出さんは語る。自身、ブックデザインも手がけ、造本装丁コンクールで賞を受けたこともある。自分が書くものを自分のリズムで、清浄に刊行できる環境を求め、この形に行き着いた。
パソコンでページレイアウトをし、インクジェットプリンターで印刷、手作業で折って切って製本する。プリンターは家庭用の高級機種だ。顔料インクを9色使い、カラーイラストなどは一見、リトグラフかと思う出来栄えだ。「5年前なら考えられなかったでしょうね」と、平出さんも機械の「進歩」に恐れ入っている。
機械と並んでネット環境も進歩を遂げた。販売委託したアマゾンからは週2回、メールで販売報告と注文が来る。平出さんの送料負担で納品。注文者には厚紙の荷造りで届くから、郵送とは「装丁」が違う。価格は、税込み777円。切手代120円は出版者負担で、初版第1刷は40部。「それで原価計算はできている」そうだ。
「読者は40人はいてほしい。そのくらいだと作業も大変でなく、疲れない」。とはいうものの叢書1冊目の『雷滴 その拾遺』は20刷に達し、400部になった。
極めて親密で繊細な手作業は、電子環境で洗練を深め、ネット経由でも他者の手に届く。「キャッチフレーズはLASTING BOOKS――持ちこたえる本、いわば『背水の本』。巨大な出版システムへの抵抗なんです」と語るが、力ずくの抵抗ではなく、ひらりと身をかわしてすり抜けていくような優美さは、本の形そのままだ。
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郵送とアマゾン以外に、いくつかの書店が直接扱うという想定外の第3のルートもできたという。詩などの同人誌は昔から、書店に頼んで置いてもらうことも多かったものだ。「この出版のやり方は、だれでもできます。でも、こんなにきれいにはできませんよ」と、自信を見せる。詩の本は何より美しくなければ。叢書は月刊ペースで、現在4冊出ている。
著者:平出隆
出版社:via wwalnuts 価格:¥ 777
著者:平出 隆
出版社:新潮社 価格:¥ 6,300
著者:平出 隆
出版社:双葉社 価格:¥ 3,990