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地震予知は可能か 泊次郎さんが選ぶ本

[文]泊次郎(東京大地震研究所研究員・地球科学史)

[掲載]2011年7月3日

写真:東海地震の予知を目指す、地震防災対策強化地域判定会の打ち合わせ会=2009年拡大東海地震の予知を目指す、地震防災対策強化地域判定会の打ち合わせ会=2009年

表紙画像著者:島村 英紀  出版社:講談社 価格:¥ 750

■「前兆」の空しさ、歴史に目を

 地震発生を前もって知ることができたら、というのは古くからの人類の夢であった。日本でも、気象が異様である、星や月が近く見える、動物が異様な行動をとる、などさまざまな地震の「前兆」が伝えられてきた。 1880年の横浜地震の後、お雇い外国人たちが中心になって日本地震学会がつくられると、地震予知の実現は地震学の目的の一つに掲げられ、「前兆」が近代科学の対象になった。

 以来、大地震が起きるたびに地震予知は社会の大きな関心を集め、関心がさめかけたころに次の大地震が起きるという歴史が繰り返されてきた。1965年からは国の地震予知研究計画が始まり、今も続いている。

 科学観測によって報告された「前兆」は数多い。本震の前に起きる前震、震源付近での地震活動の活発化や静穏化、地殻の変動、地震波速度の異常、地下水位やラドン濃度の異常、電磁気や地電流の異常などである。

■なかった再現性

 これらの前兆をもとに大地震の直前予知は可能である、と考えた研究者も少なくなかった。78年には、東海地震が予知できることを前提にして、大規模地震対策特別措置法(大震法)が制定された。

 ところが、これらの「前兆」は、地震が起きた後にそれと分かったものばかり。しかも、「前兆」の出現の仕方はバラバラで、何の規則性も、再現性もなかった。予知の決め手になる「前兆」は何も見つかってはいない。「前兆」発見に重点を置いた地震予知計画の空しさや大震法の問題点については『「地震予知」はウソだらけ』に詳しい。

 95年の阪神・淡路大震災の後、政府は地震調査研究推進本部を設け、どこで大地震が起こる確率が高いかの予測を公表するようになった。地震予知計画も見直され、基礎的な研究に重点を置くよう軌道修正された。一方で、世界に例を見ない高密度の地震観測網が整備された。

 これにより、東日本大震災を起こしたプレート境界地震などについて新知見が得られた。この10年間の進展を紹介したのが『地震予知の科学』である。

 プレートの境界面は普段、どこもべったりくっついているわけではない。地震を起こさずズルズルとすべっている部分と、がっちりと固着している部分(アスペリティ)に分かれていて、アスペリティが急激にずれ動くと地震になる。東北日本では、アスペリティは境界面の3分の1程度であり、「地震が発生する場所と規模に関しては、ほぼ実用的な予測はできている」――と、本書は述べていた。

■過去のデータを

 だが、今回の東北大地震がマグニチュード9の超巨大地震になったのは、地震を起こさないと考えられていた3分の2の部分も大きくずれ動いたからであった。「いつ」はもちろん、「場所」と「規模」についても「想定外」だったのである。

 『超巨大地震に迫る』は、このような「想定外」がなぜ起きたのか、という問題にも迫っている。一言でいえば、超巨大地震が東北日本で過去にも起きたという例を知らなかったためである。歴史を参照することなしに、未来を予測することなどできない、というのが現在の地震科学の限界なのである。

 限界を克服するには、不思議な現象に向き合う研究者の好奇心を大切にすると同時に、過去の地震に関するデータ収集に優先順位を与えるべきだ、という著者の主張が新鮮に響く。

    ◇

 とまり・じろう 東京大地震研究所研究員(地球科学史) 44年生まれ。元朝日新聞編集委員。著書に『プレートテクトニクスの拒絶と受容』。

表紙画像

地震予知の科学

出版社:東京大学出版会   価格:¥ 2,100

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