[評者]中川六平
[掲載]週刊朝日2011年8月12日号
亡くなって3年たつが、草森さんの新刊本は絶えない。大学卒業後の3年間(1961〜64年)の婦人画報社編集者時代とその後の数年を回想したのが本書である。真鍋博、中原淳一・葦原邦子夫妻、伊丹十三らとの交流を描く。東京オリンピックを控え時代は大きく動いていた。
古山高麗雄に会ったのは退職後で書き手になっていた。安岡章太郎『悪い仲間』のモデルで「芸術生活」副編集長の古山は、机の上に両足を横柄にのっけていた。その「ふてぶてしさ」は、少女のような「含羞」の少年的居直りではないかと回顧する。同誌で連載することになり、担当編集者はのちに詩人になる清水哲男。原稿を持ってきた田中小実昌は、「酒でもいいですか」と喫茶店でつぶやいた。原稿を目の前で読まれ、気の弱い自分をまぎらわそうとしているように見えた。人物論であり、「真相の探求より曖昧さと戯れの方が重要」という記憶をめぐる本でもある。
著者:草森 紳一
出版社:本の雑誌社 価格:¥ 2,940