最初、フレンチコミック作家の作品かと思った。というのは嘘(うそ)だが、それくらいアートな画風で無国籍な雰囲気。日本人が欧米を舞台に描いて、これほど醤油(しょうゆ)臭くないのは、多田由美とこの人ぐらいだろう。
物語は、とある娘の駆け落ち計画が父親にバレたところから始まる。激怒した父親が恋人に危害を加えるのを恐れた娘は、ふと目に入ったホームレス風の青年・イアンを身代わりにしようと企(たくら)む。が、話をするうちに彼が自分の母親と縁ある人物とわかり……という導入部(それは同時に結末でもある)から、イアンの辿(たど)った数奇な人生が語られる。設定だけ見ればベタな昼ドラになりかねないが、絶妙の構成力とクールなセリフ回しがヨーロッパ映画のような洒脱(しゃだつ)さを漂わせる。シンプルな線で描かれるキュートなキャラは、暗い話に救いを与えている。
1巻ではまだイアンの人生の片鱗(へんりん)しか見えないが、今後に期待を抱かせるには十分。歪(ゆが)んだ親子関係、児童虐待、同性愛といったシリアスな素材を盛り込みながら、どこかファンタジックな現代の寓話(ぐうわ)である。
ちなみに本作は無料WEBコミック誌『COMIC SEED!』で連載中。といっても、特にWEBで見せる必然性はなく、正直、紙媒体のほうが読みやすい。しかし、こういう一般商業誌には載りにくい異色作に発表の場を提供している点は大いに評価したい。