よく離婚の原因で「性格の不一致」と言うけれど、ならば「食の不一致」も理由になるのではないか。少なくとも本書の主人公にとっては十分アリだろう。趣味も生活スタイルも合うし性格もいいのに、食事に対する関心が薄いというだけで、せっかく捕まえた彼氏と別れてしまうのだから。
仕事中と睡眠中以外は常に食べ物のことを考え、おいしいものを食べて感動を分かち合うのが無上の喜びで、自分が連れていった店にケチをつけられるのは許せない。そんな因業な食い道楽の女性漫画家が、いろんな店でいろんな人とメシを食う——それだけのマンガが、なぜだか面白い。
まず彼女と食い道楽仲間の食べっぷりが圧巻。一口ごとに至福の笑みを浮かべ身悶(もだ)えする姿は、官能的ですらある。定評ある料理描写もパワー全開。しかし、本作が単なるグルメものと違うのは、<他人と食事をする>という行為を通して、人間関係の微妙なアヤを浮き彫りにしている点だ。
そもそも食欲とは、ある意味、性欲より根源的でエゴイスティックな欲求である。だからこそグルメものは根強い人気を保っているわけだが、その素材をかくも味わい深く料理できるのは作者ならでは。実在の店を舞台とし、エッセイマンガ風の体裁をとりながら、中身は洒落(しゃれ)た短編映画のよう。虚実のサジ加減も絶妙なグルメマンガのヌーベル・キュイジーヌである。