ストーリー紹介は10文字で済む。「小学生が子供を産む話」。が、一見単純な筋書きの中に、学校教育、親子関係、地域社会、職業意識、男女平等といったさまざまな問題が煮詰められ、スープカレーのような後引く味わいを醸し出す。
センセーショナルな描き方をしようと思えば、いくらでもできる題材を、静かに淡々と、むしろ「ほのぼの」と形容していいようなトーンで描く姿勢は、作者ならでは。そして何より、生と死を見つめる視線の切実さが胸を打つ。
小学5年生で妊娠した主人公・春菜が、母親の胸に抱かれて母と自分の心臓の音を聴きながら、そこにもうひとつ赤ちゃんの心臓の音が重なるシーン。家で飼っていた鶏をつぶして食べるとき、最後に触れた鶏の体温を思い出しつつ、心の中で「いただきます」と唱えるシーン……。そんな場面での彼女の心の動きと身体感覚が、リアルな感触を伴って伝わってくる。
思えば作者は、天才ピアノ少女が主人公の『神童』で「音」を、犬と一緒に育てられた少年の物語『トトの世界』で「匂(にお)い」を、喜怒哀楽が麻痺(まひ)した青年の孤独を描いた『犬・犬・犬』(花村萬月原作)では「痛み」を見事に体感させてくれた。マンガという媒体を用い五感すべてに訴える。その不思議な感覚は、水の流れのようにサラサラと、しかし確実に、読む者の心と身体に染み込んでくる。