「美は乱調にあり」とは明治大正のアナーキスト・大杉栄の言葉であるが、本書にはまさにその言葉がふさわしい。とにかく絵もセリフも構成も、すべてが唐突でアンバランス。教科書的常識からは明らかに外れている。にもかかわらず、ページを開いた瞬間、心臓を鷲(わし)づかみにされるような妖美な空気が溢(あふ)れ出す。
女暗殺者とそのサポート役の男子高校生、自殺した花魁(おいらん)の幽霊と放浪絵師、末期ガンに侵されたホテル王と少女娼婦(しょうふ)、ボルドーの女吸血鬼と呼ばれる寡婦とワイン取材に訪れた雑誌記者など、ワケありな女とそれを取り巻く男たちの物語が6編。
設定からして相当に浮世離れしているが、その異界感も魅力のうち。激情と官能を振りまきながら、どこか無機質な冷酷さを秘めた女たちがエロスとタナトス、すなわち生と死にまつわる人間の根源的欲求を刺激する。
もともと映像関係の仕事に携わっていたという作者だけあって、荒々しくダイナミックな描線でドライヴ感たっぷりに描かれる画面は、ジョン・ウーやリュック・ベッソンの映画のよう。既存のマンガの枠に収まろうとしないアナーキーな精神と過剰なまでのエネルギーが、読む側にも体力を要求するため、万人におすすめはできない。それでも、『キリコ』『クリオの男』といった過去の作品より一段と乱調の度を増した感のある本作は、危うい美しさで我々を誘惑するのである。