あだち充が最も得意とするジャンルは、やはり野球まんがだ。現在連載中のこの作品も、ご近所に住む幼なじみの男女の日常生活を描きながら、ドラマはやがて高校野球という大きな舞台へと展開していく。
物語に読者をぐいぐいと引き込む手腕はさすがだ。著者独特のていねいで含みの多い表現も、あいかわらずみごとな切れ味を見せる。
その一方で、手慣れた手法の繰り返しになりかねないこの作品に、強い緊張感をもたらしているのは、ある主要人物の突然の死だ。物語の途中で起きたその事件が、決定的な役割を果たし、その後の主人公たちの生き方に深く関(かか)わっていく。
そう書くと、多くの人は著者の代表作『タッチ』を思い浮かべるだろう。実際、本作の展開は『タッチ』の変奏曲に見えかねない面を持っており、むしろ、そこにこそ著者の今回の挑戦があるように思われる。
自分自身がかつて描いた名作と、どうしても比較されてしまいそうな物語を、あえて描いてみせることには、旧作を超えようという著者の強い意志が感じられる。
いつも連載の長い道のりを通じて、必ず物語に責任を取る姿勢を貫いてきた著者が、今回どのような戦いぶりを見せるのか。人の死を、単にドラマの道具立てにおとしめることなく、どう描ききるのか。作者の本気さが伝わってくるこの作品、今後の展開が期待される。