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イノセントブローカー [作]加藤山羊

[掲載]2008年8月31日

  • [評者]南信長

 たとえば人気犬種を飼っている愛犬家の個人情報リストを売りたい人がいる。それをペット誘拐業者に仲介し、手数料を得るのが本書の主人公の商売。違法性の高い商材を専門とする闇のブローカーである。証拠を残さないため契約書は交わさず、口約束のみで取引する。もしも顧客が契約違反を犯したときは、容赦なく違約金を取り立て地獄に落とす……と、それだけならば、よくある仕事人モノのパターン。

 本書が個性的なのは、まず主人公の青年の特異なキャラだ。〈ブローカーは無邪気に人を信じていなきゃできない仕事なんです〉と笑顔で語る誠実な仕事ぶりは、裏業界の人間とは思えぬ純粋さ。が、その実、彼は少しも人を信用していない。

 それは前職の小学校教師時代の“ある事件”に起因している。〈信じてますけど、裏切られるの、絶対いやなので〉と顧客に釘(くぎ)を刺す表情は能面のよう。そして裏切った相手から、いかに違約金を取るか。まさに裏技と言うべきその回収方法にも驚嘆する。

 作者は、姉が原作、妹が作画担当の姉妹ユニット。ともに子育て中という主婦が、なぜこんなハードな物語を書けるのか。絵は素人臭いが、それが逆に生々しい。特に人を裏切ろうとする人間の邪悪な表情は絶品だ。

 人間の醜さを目の当たりにしながら、それでも人を信じようとする孤独な男。『ナニワ金融道』の衝撃にも迫る新たなピカレスクヒーローの誕生である。

    ◇

 「ビッグコミックスピリッツ増刊号」掲載作を収録。

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