[掲載]2010年7月18日
■女学生?おばあさん?猫?
題名のミルは、猫の名前。ひとり暮らしの大学生の青年に飼われているが、正体は化け猫だ。人の姿に化けると、見た目は16歳の女子高生だが、実年齢は大正生まれの86歳。だから言うことなすこと、すべてが年寄りくさい。おまけにどうやら死なないらしい。そんな猫が、主人公のもとにやってきて、奇妙な同居生活をしていくさまが描かれる。
一見ありきたりの「押しかけ女房もの」に思えるが、こんな設定だから、決して単純な話にはならない。同棲(どうせい)ものらしい展開を予感させつつも、ヒロインの86歳という人生の重みがその気分を中和してしまう。男女間の緊迫感はほとんど漂わず、穏やかな日常の時間が流れていく。かといって、彼女は母性によって主人公を包み込むわけでもない。しょせん猫なのだ。子どものように素朴なヒロインの行動を通じて、飼い主と猫の無邪気な関係が描かれる。
彼女は一体女学生なのか、おばあさんなのか、猫なのか。主人公との関係はどれにも収斂(しゅうれん)せず、牽制(けんせい)しあって宙吊(ちゅうづ)りにされる。その絶妙なバランスが、むしろ2人の結びつきを強く印象づける。具体的なわかりやすい図式に着地しないからこそ、ただ向きあうべき「誰か」の切実な存在感が、そこにとらえられる。彼女が何であるかではなく、彼女がいることそのものが描き出されるのだ。そんな手応えがしっかり伝わってくる。
軽妙さと読み応えが備わった、今後の展開が楽しみな力作だ。
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初出は「月刊!スピリッツ」
著者:手原 和憲
出版社:小学館 価格:¥ 550