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江戸ノベルズ(時代小説 + 剣豪小説 + 捕り物帳 + 歴史小説 + 武士道物語 + 股旅物 + 忍法帳 + 市井人情物ほか)=江戸小説)

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いま「江戸小説」がおもしろい!

越川禮子さん

江戸っ子の心としぐさを現代の暮らしにいかしたい。

「江戸しぐさ」とは、江戸町衆の生活信条が、目つき、表情、ものの言い方、身のこなしに表現された「瞬間芸」のことです。しぐさは「思草」と書きます。思慮、思案の「思」と、言い草の「草」を合わせた言葉です。江戸町衆とは、江戸町方のリーダーたちのこと。現代でいう経団連のメンバーのような存在でした。全国から人が集まる江戸の町において、トラブルを未然に防ぎ、人々が安心して暮らせるようにと江戸しぐさは考案されたのです。

江戸っ子の条件

江戸町衆たちは、人間は脳(頭)と身体と心の三つから成り、「心」は操り人形の糸のような役割をもつと考えました。「心」がなければ、人間はただの木偶の棒──。「忙しい」や「忘れる」という事態は、「心を亡くした」状態であり、大変嫌われました。

江戸しぐさを身につけた人が「江戸っ子」です。明確な定義があるわけではありませんが、あえて言いますと次の四つが江戸っ子の主な特徴といえるでしょう。(1)目の前の人を仏の化身と思える、(2)時泥棒(※1)をしない、(3)肩書を気にしない、(4)遊び心がある。

江戸っ子の子育て

こうした江戸っ子を育てるためのポイントがありました。江戸っ子たちは「三つ心、六つ躾、九つ言葉、十二文、十五理で末決まる」と言い、これらを手取り足取り、口移しで体得させたのです。

◆「三つ心」 数え年の三歳までに、目に見えない心の糸をしっかりと張り込み、糸(心)が手足を動かすことを体感させていました。

◆「六つ躾」 六歳までには身体と脳を結ぶ糸を、何度もなんども動かし、繰り返すことによって、上手に美しいしぐさができるようにします。「傘かしげ、肩引き、カニ歩き、うかつ謝り(※2)」のお初しぐさ(稚児しぐさ)をマスターさせます。

◆「九つ言葉」 九歳までにどんな人にもきちんとあいさつができること。また、大人の「世辞」がいえるようになること。「世辞がいえる」ことは、江戸っ子の条件でした。

◆「十二文」 十二歳までには、請求書、納品書、弁解書までまがりなりにも書けるようにしました。万一、主が亡くなっても代理ができるようにするためです。こうしたことが子どもに一人前の人間としての自覚をもたせることにつながります。

◆「十五理で末決まる」 森羅万象を暗記でなく、実感として理解できるのは十五歳だそうで、この年齢でその人間の行く末というか、展望が大体決まるということを意味しています。

(※1)「時泥棒」は突然断りもなく押し掛けて相手の時間を奪う行為のこと (※2)「傘かしげ」は、傘を人のいない方へ傾けてすれ違うこと。「肩引き」は狭い道で人とすれ違うとき、お互いに肩を後ろへ引くこと。「カニ歩き」も込み合う往来でカニ歩きですれ違うふるまい。「うかつ謝り」は、トラブルを事前に察し素早く対処できなかった自分のうかつさを反省すること。例えば足を踏まれて謝られたときに、「こちらこそうっかりしまして」と応えるようなこと。

思いやりと毅然とした人間の尊さを描く江戸小説。

ほんとうは「今日は!」のあとには、「冷たいものが降りまして」とか「よいお天気でございますね」とか「おばあちゃまはお元気ですか」とかお愛想や思いやりの言葉が続くのです。ですから「こんにちは」であって、「こんにちわ」ではないのです。どんな人にも決して失礼な言葉は使いませんでした。相手を怒らせたり、誤解の生まれるようなものの言い方はしなかったのです。

江戸しぐさを読む

壽々方さんの江戸がたりで聞いた平岩弓枝さんの『ちっちゃなかみさん』は、向島の料理屋、笹屋の一人娘・お京の婿取りをめぐる物語ですが、信吉の姪・加代の台詞が忘れられません。

お京はしっかりもの、年は二十歳。かつぎ豆腐屋の信吉を、この五年間じっと見つづけ、信吉の人柄こそこの家のお婿さんにふさわしいと、父母にうちあけます。

ところが信吉がお正月に赤い飾り櫛と糸のびらびら下がった飾り櫛を買ったので、冷やかされて「なあに家で待ってるかみさんに」といったとかで、お京はがっかりとふさぎこみます。夫婦は一人娘の一大事と、言問から浅草馬車道の信吉の家を訪ねるのです。「ごめんなさい、こちらは信吉さんのお住まいですか」「信吉は手前どもでございますが」と、迎えたのは十歳ぐらいの女の子、地味な木綿の着物に赤い帯、前掛けで手を拭き拭きでてきた格好がまるで世話女房。「どなたさまでございましょうか。信吉は只今留守でございますが」。夫婦は素性を明かし、手土産をだすと「それはわざわざお立ち寄り下さいまして有難うございます。お世話になりました上に、頂戴物まで致しましてお礼の申しようがございません」。小走りに奥に入り、座布団を二枚「汚いところでございますが、どうぞ、おかけ下さいまし」まさに下手な大人顔負けの口上としぐさが見事なのです。

この小説はまだまだ続くのですが、自分の頭で考えたことを大人の言葉で言える江戸の少女のけなげさ、よい縁談を断り続け、初恋を貫く凛としたお京の姿、自立する江戸小町の面目躍如で楽しいお話でした。先に挙げた「九つ言葉」の江戸子育てを見事に表現しているのです。この小説のもののいいかたを抜粋して、今の大人たちに聞かせてあげたいものです。

時代小説には全編に思いやりがあふれています。侍ものには武士の道を貫く毅然とした人間の尊さが描かれています。どちらも現代の人間には希薄になったもの。江戸小説には現代人の心を育む力があるのかもしれません。

江戸小説
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