「昭和30年代」への郷愁が、多くの人たちの心をとらえている。1958(昭和33)年の夕暮れ時の街を再現した新横浜ラーメン博物館が94年に開館したあたりからか、「昭和30年代」を演出した商業施設が各地に生まれた。11月には、西岸良平の人気漫画『三丁目の夕日』(小学館)が原作の映画が公開された。出版物も50年代、60年代の文化や世相を回顧する本が増えた。
まずテレビが登場した時代だった。佐々木守『ネオンサインと月光仮面』は、日本のテレビ創成期の名作を数多く生み出した稀有(けう)な広告人を描く。瀬戸川宗太『懐かしのアメリカTV映画史』(集英社新書)は、「名犬ラッシー」など、当時の子供たちの異文化体験となった番組の位置づけを時代背景をふまえつつ詳述。テレビ主題歌がよみがえり、無条件に懐かしい。
「政治の季節」でもあった。高度経済成長がもたらした公害や環境破壊、社会矛盾も表面化。ビートたけし他『60年代「燃える東京」を歩く』は「大切な何かを、取り戻すために」、当時の事件現場を再訪し、東京の記憶をたぐり寄せる。平岡正明『昭和ジャズ喫茶伝説』(平凡社)は時代の喧噪(けんそう)と熱き思いをジャズを通して伝える。
貧しいが、笑顔が輝いていた。岩永辰尾の写真集『東京タワーが建ったころ』は「皆自分の環境に応じてたくましく生きた日本人の姿」を穏やかにとらえている。「ガード下の靴みがき」など当時の人気作詞家、宮川哲夫の人生を描いた辻由美『街のサンドイッチマン』(筑摩書房)は、時流に乗れなかった人たちへの共感が切ない。
「ひたむき」「愚直」などの言葉がよく似合う「昭和30年代」と現代をつなぐのは、なぎら健壱の写真集『東京のこっちがわ』。21世紀の下町の姿を写し取る目線が温かく、人々の心は時代を超えても変わらないことを気づかせてくれる。