いったいどこのどいつの恋なのよ?
つかみかかってきやがるのは!
これ、どこのどいつのでもない『万葉集』巻4所収の、広河女王(ひろかわのおおきみ)の短歌の下の句「いづくの恋ぞ/つかみかかれる」の現代語訳。本歌もすごいが、訳もなかなか! こういう調子で万葉集の恋歌を訳したのが上野誠『小さな恋の万葉集』だ。添える写真も現代の若者風俗。「教科書では出合えない、すてきな万葉集があるんだよ」と、中高生にアピールすることに徹している。
今、古典を現代語で。きっかけは02年の『口語訳古事記 完全版』(三浦佑之訳注、文芸春秋)だった。以来、一昨年に始まった「すらすら読めるシリーズ」(瀬戸内寂聴『源氏物語』など)や、昨年スタートの「学び直しの古典」(小学館)。河出文庫(河出書房新社)は「現代語訳古典文庫」に、福永武彦訳『古事記』『日本書紀』などがあるほか、橋本治の『桃尻語訳 枕草子』『絵本徒然草』もそろえる。
もちろん、ねらう読者は若者ばかりではない。「大きめの活字、原文に忠実、ゆかりの地への旅のガイド付き。これから自由時間が増えて、まだまだ活動的な団塊の世代がコアターゲット」というのは、「ビジュアル版 日本の古典に親しむ」の担当者。出版界における“2007年問題”なのである。もっとも「ほとんど総ルビで、若い人にも配慮している」という。
ところで現代語訳と言えば、やはり『源氏物語』。円地文子、瀬戸内寂聴、田辺聖子、谷崎潤一郎、橋本治、与謝野晶子らの仕事が、本屋さんの棚に並ぶ。「現代京ことば訳」というのもある(中井和子訳、大修館書店)。
これら古典の魅力は、なんといっても登場する人々のパワーだろう。恋愛にも戦(いくさ)にも全力投球する、昔の日本人のアツい姿。そのエネルギー、いささか分けていただきたい。