どれほど言葉を費やしても一枚の写真にかなわないということは、ある。反対に、極限にちかく簡潔な言葉、例えば諺(ことわざ)などを映像で描こうとすれば、一瞬ではすまないだろう。そんな、端的な言葉の奥に広がる世界を秋の夜長に楽しみたい。
米原万里著『他諺(たげん)の空似(そらに)』は、タイトルからして言い得て妙、ぴたりと過不足がない。「医者の不養生」など30のなじみの諺・格言を表題に、世界の各地、各時代、人間あるところには同じような言い回しがあるのを博捜していく。しかもそれぞれにしんらつな小話付き。素材を惜しげもなくつぎ込み、楽しませてきた著者の面目躍如たる遺作だ。
小関智弘著『職人ことばの「技と粋」』もまた、「半竹」「オシャカ」など職人がよく使う言葉や、「カバのあくび」「ゆうれい線」といった職種特有の言葉などを通じて、著者が長く身を置いてきた職人の世界を伝える。どれほど機械化されても、いかにいいモノを作るか、は人間の手が決めるのだ。
本を読む——読書にもコツがある、と説くのは平野啓一郎著『本の読み方 スロー・リーディングの実践』。タイトルにある通り、速読とは真反対に立ち止まり、引き返し、繰り返し、声に出さずに読むことを勧める。自身、そうした読書で「ある作家のある一つの作品の背後には、さらに途方もなく広大な言葉の世界が広がっている」のを学んだという。
作家・ライター、編集者、翻訳家ら言葉にまつわる仕事をする9人へのインタビューをまとめた仲俣暁生『〈ことば〉の仕事』は、インターネットで誰でも不特定多数に向け言葉を発信できるいま、「言葉をあつかう仕事」に何が起きているかを探る。ほとんどが60年代前半生まれ。それぞれ、仕事についての明確な方法意識が印象に残る。