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たいせつな本

澁澤龍彦『夢の宇宙誌』 四谷シモン(下)

[掲載]2007年02月04日

■生を模写する人工物 不可侵の聖域に誘う

 ほんとうのところ、まるで別世界にはいりこんだようで、どんなあかりを手にして前へ進んでいってよいものやら、まったく見当がつかなかった。ただこの本には、人形について、他の人とは何か違うところからの光のあて方があって、人形が科学的な力で動くということ、西洋と日本の歴史のなかでそれらがかなり以前からつくられていたということがしつこいくらい詳しく書かれていた。

 それは、たとえば日本でいえば、江戸時代に文字を書く人形があったということなのだが、人形が文字を書くとか、楽器をならすとかいうことは、いったい何なんだと不思議に思った。また、1800年代のロンドン万国博覧会に出品された奇妙な人形の図版ものっているが、これは7000種の材料でできていて背丈が伸縮するという。こうした人工物が生物を模倣するという、何か犯してはいけない領域のものが、この本にはともかくたくさん出てくる。

 ここまであげたのは人形の例ばかりだけれど、この本で知ったものには他にアンドロギュヌス、アルチンボルド、スウェーデンボルグ、もうきりがない。しかし、人形は芸術作品である前に玩具領域のものなのだということが、芸術表現という固定観念にしばられていた僕にとってはやはり大発見だった。読んで、人形の領域はギリシャのタナグラから出土した副葬品の人形からゼンマイ仕掛けの自動人形までものすごく広いのだと目を開かれ、それで生きようと思った。そういう思いを確固たるものにしてくれたのが、『夢の宇宙誌』だ。

 ところで、先日久しぶりに本を開いてみてびっくりした。実はここ2、3年、生き人形の展覧会が各地で開かれている。幕末から明治にかけて活躍した松本喜三郎や安本亀八の生々しい人形の展覧会だ。ところがこの本のなかに、それらがすでに紹介されているのだ。この本が書かれてからもう40年を超えているが、『夢の宇宙誌』のなかに、松本喜三郎の生き人形の話が出ていたのが、今とっても新鮮でうれしいことだった。(人形作家)

    ◇

 64年刊(美術出版社)。「澁澤龍彦全集第4巻」(93年、河出書房新社)所収。写真は河出文庫版。

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