[掲載]2008年4月20日
■透き通ったカバーに タイトルを万年筆で
いつの間にやら本が堆積(たいせき)して、ついには部屋の奥まで進むあたわざる、という事態になってしまったので、本の大整理を行った。
(こんなに処分してしまって、後悔するだろうな)(今「いい」と思うものも、そのうち「あんまり」になるかもしれないし、反対に「ちょっとこれは」と思ったものが、十年後には「やっぱりすごくよかったのでは」になるのでは)と、くよくよすることしきりではあったのだけれど。
でも、まあいい。持ちすぎるよりも、持ち足りない方が、なにかと気持ちいいような気がするから。
本棚に残った本には、すべて帯がない。本屋さんでかけてくれる紙のカバーも。せっかちのじれったがりなので、すぐにむしり取ってしまうのである。
ただ、一冊だけ、グラシン紙のカバーのかかった本がある。本屋さんではなく、これは二十代の頃自分でつけたカバーだ。
立派なかまえの本ではない。角川文庫の、表紙は和田誠の三日月と貝殻のある不思議な絵、厚さは一センチにも満たないその本とは、吉行淳之介の掌編を集めた短編集『菓子祭』である。
吉行淳之介の文章はみな好きなのだが、中でも掌編での言葉の削(そ)ぎ落としかた、削ぎ落とされた文章からたちのぼる濃密なエロティシズムに、強く惹(ひ)かれる。
透き通ったカバーの背表紙に『菓子祭』『吉行淳之介』の文字を万年筆で書きこむ、などという感傷的な本の扱い方をしたのは、この本が最初で最後だ。
同じく掌編を集めた『鞄(かばん)の中身』は講談社文庫で、こちらにはカバーはかかっていない。『菓子祭』という言葉に、きっと私はやられてしまったのだ。
好きな言葉を頭の中でころがす方が、実際に誰かを好きになるよりもよほど快楽に満ちていると、あの頃は(もしかすると今も?)思っていたような気がする。(作家)
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初版発行は79年(潮出版社)。約20の短編を集めた。角川文庫、講談社文芸文庫などからも刊行された。
著者:吉行 淳之介
出版社:講談社 価格:¥ 1,029
著者:吉行 淳之介
出版社:角川書店 価格:¥ 275
著者:吉行 淳之介
出版社:講談社 価格:¥ 1,029