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佐野誠『開発のレギュラシオン』 内橋克人(下)

[掲載]2008年5月11日

■「知的不誠実」のなか 誠意貫き、警鐘鳴らす

 2006年初め、「日本社会の格差拡大は見かけだけ」と唱えた内閣府は、翌年6月、今度は「勤労者のクビを切りやすくすれば雇用の機会が増える」といった理屈の調査結果をまとめた。OECD加盟24カ国が調査対象という(「労働者保護法制と就業率」調査)。

 景気の「いざなぎ超え」がはやされるようになると、06年4月、日銀展望リポートは「今後、日本経済は内需と外需のバランスのとれた景気拡大がつづく」と説きつづけた。

 権威のつくり出す常識が現実によって裏切られる。権威は素知らぬ顔で通り過ぎる。

 この国を被(おお)う時代の空気は「知的不誠実」にある。辻褄(つじつま)の合った(コンシステントな)表現者でありつづけたい、そう願う心さえ捨て去られて久しい。

 本書の著者・佐野誠氏は百八十度対極に立つ。この時代、あくまで「知的誠実・誠意」にこだわる数少ない経済学者の一人だ。

 本書のサブタイトルに「負の奇跡・クリオージョ資本主義」とある。「中南米生まれの、現地風のという意味のスペイン語」という。「負の奇跡」とは、たとえば「チリの奇跡」(ミルトン・フリードマン)とか「南米経済の優等生」なる刹那(せつな)主義的事大評価への鋭い反語であろう。南米アルゼンチンの徹底的な歴史分析・実証研究が19世紀末を起点に始まる。

 軍事政権下、膨大な市民が虐殺されたチリ、アルゼンチン。「開発独裁あってこそ市場メカニズムが機能した」ふうな新古典派開発経済学の虚妄を余すところなく摘出した。

 本書は著者38歳の大著。いま「負の奇跡」を警鐘として著者の炯眼(けいがん)は日本の新自由主義改革へと激しく向かう。「新自由主義サイクル日本版」の悪夢こそ著者の警告なのである。

 経済学の初級レベルで刷り込まれる「ハッピー・バランス(おめでたい市場均衡論)」に黄昏(たそがれ)の時が迫っている。(経済評論家)

    ◇

 さの・まこと 60年生まれ、新潟大経済学部教授。ラテンアメリカに精通。

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