もし2003年に日韓共催ワールドカップが設定されていたら——、と本書でサッカー協会の幹部が述懐する。
たしかに新型肺炎SARSの感染拡大、イラク戦争の強行と続いて、大会が開かれなかった可能性は高い。
招致委員会に出向し、陣頭指揮をとった広告マンはこう総括する。「彼らは素人集団だったかもしれないけれど、『失われた10年』と言われる通り、政治や経済が何も成し遂げられなかった1990年代に、Jリーグとワールドカップ(招致)を実現した。すごいと思う。日本人はディテールを詰めていくのはすごくうまいけど、大きな青写真を描くのは苦手じゃないですか。でも彼らはそれをしっかり描いた。彼らはやったんです」
この場合の「彼ら」は開催を夢見、実現させた協会のキーパースンたちだ。
書名タイトルを「覚書」としたことからも分かるように実現プロセスの整理が巧みで、FIFA(国際サッカー連盟)の堕落によってもたらされたチケット問題などの混乱を改めて思い起こさせてくれる。
やや薄味な筆致ながらも読後感が爽快(そうかい)なのは、韓国側の人格高潔なキーパースンが初めて紹介されたから。難しい共同作業の過程で真のパートナーシップが築かれ、別れを惜しむ日本人続出の逸話に胸が熱くなる。