ヤクザを約20年取材してきた著者だけに、その組織論には説得力がある。門外漢にとって驚くような話が多い。
例えば、ヤクザの世界では「時間にルーズな者は絶対に信用されない」。交渉を優位にするためには、相手よりも早く着くことが重要だ。会合などでは開始1時間前には出席者の大半が集まっているという。
また、彼らにとって情報は命である。仮に業種ごとの携帯電話使用率調査があれば、この業界が1位になるという。ひとり2〜5台の電話をひっきりなしに使う。厳粛なイベントである「盃事(さかずきごと)」の際ですら着信音が鳴るという。ITの普及により常時連絡が取れるため、事務所を閉鎖して潜行する動きもある。
そうした合理性の一方で、組織の強さは懲役を厭(いと)わない若い衆がどれだけいるかで決まるらしい。部下を陶酔させるカリスマ性が組長には必要だ。ある組員は、出所直後に涙を流した組長を見て、「この親父(おやじ)のためなら、俺(おれ)はいますぐ再び懲役に行ってもいい」と思ったという。
著者は筆力があるので、彼らの濃厚な人間関係に「美学」を感じてしまう向きもあろう。しかし、最近の「カタギ」の世界においては、経営者への極端な追従が問題である。それが違法行為へのリスク管理を麻痺(まひ)させ、企業犯罪に陥ってしまうケースは枚挙に暇(いとま)がない。