我々が銀行や証券会社の窓口で勧められる金融商品には、オプションと呼ばれる金融技術が組み込まれたものが実は非常に多い。本書はそのオプション価格理論を創(つく)って金融市場に革命を起こしたフィッシャー・ブラックの評伝である。彼は57歳で亡くなったが、その業績は死後高く評価された。死去2年後の97年には、共同研究者のマイロン・ショールズらがノーベル賞を受賞する。
経済学界で異端だったブラックは、大経済学者ミルトン・フリードマンに「きわめてナンセンス」と酷評されつつも論争を挑んだ。その様子は「異教徒がセントポール寺院に乗り込んで行って、聖書の中身はみんなまちがいだと宣言したようなものだった」という。
94年に喉頭(こうとう)がんに侵されたことが分かると、ブラックはてきぱきと人生の手じまいにかかる。友人の著名経済学者らが彼の業績を称(たた)える企画を相次いで行う中、ホスピスで静かに息を引き取る過程は感動的である。
権威に挑み続けた彼だが、「自信のない人なら挫折してしまうような数々の拒絶にもめげず、ブラックは望み通りの人生を送った」と著者は評している。彼の生き様には、金融に明るくない読者も惹(ひ)きつけられるだろう。また、本書を読めばファイナンス理論の現代史も生々しく知ることができる。