多くの人に読み継がれてきたサン・テグジュペリの「星の王子さま」が、来月から様々な出版社から新訳で続々と出版される。日本での著作権が今年1月で切れ、これに伴い岩波書店が持っていた独占的な翻訳出版権も消滅したためだ。倉橋由美子さんや池澤夏樹さんら著名作家による新訳もあり、新しい「王子さま」像が話題を呼びそうだ。
「星の王子さま」は、フランス人作家のサン・テグジュペリが飛行機で飛び立ったまま行方不明になる前年の43年に英語版とフランス語版が出版された。日本では53年に岩波少年文庫として出た。日本での著作権保護期間は原則として著作者の死後50年まで。だが、この作品の日本での著作権を管理している会社によると、第2次世界大戦中に著作権が機能しなかった期間が「戦時加算」として加わるなどして10年以上延びたという。
王子の純粋な心が読者の胸を打って日本だけで約600万部に達し、今なお売れ続けている大ロングセラー。出版社が次々に名乗りを上げている。6月には論創社、宝島社、中央公論新社が刊行。また、8月には集英社が池澤夏樹さんの訳で出す予定だ。ほかにも準備中の出版社があり、10種類近く出るのではないかと見られている。
岩波版はフランス文学者の故内藤濯(あろう)さんの訳。新訳本は新味を出すのに懸命だ。宝島社版の訳を担当した倉橋由美子さんは「内藤さんの訳はすばらしい。ただ、子どもの読者を意識して訳しておられるので、私は大人のために訳した。だから、これまでのイメージを裏切ってしまうかもしれません」と話す。
出版を決めた4社の本はいずれも題名に「星の王子さま」を使う予定だ。岩波書店と内藤さんの翻訳の著作権の継承者である長男で作家の初穂さん(84)はこれに反発している。原題を直訳すると「小さい王子」。「星の王子さま」は、濯さんのアイデアだからだ。
初穂さんは「新訳ならば、それにふさわしい題名をつくるべきだ」と話す。「『星の王子さま』の名前で出版するなら、法律などに詳しい人に相談して何らかの手を打ちたい」。ただ、著作権の専門家は、一般的に本の題名には著作権は及ばず、法的に争うことは難しいとみている。
論創社は「あとがき」で、濯さんへの敬意を示す予定だ。