インターネット上の掲示板への書き込みや日記型の簡易ホームページの「ブログ」を基にした書籍。100万部を突破した「電車男」のヒットもあり、「ネット発」の書籍化が増えている。近ごろ特に、ブログ発が目立つ。総務省の調査ではブログ利用者は約335万人に上り、2年後には倍以上になると想定されている。「埋もれた素材がたくさんいる」と出版社の注目が高まっている。
東京・渋谷の「アメーバブックス」の編集者4人は、週1回の編集会議で企画をあげるため、1千近いブログや掲示板に目を通す。
ネット関連企業「サイバーエージェント」が昨夏、立ち上げた子会社だ。「ネット本」をこれまでに5冊、出版した。
最初に出した「実録鬼嫁日記」は10万部のヒットを記録。担当の木暮太一さん(27)は「いけると自信を持った」。漫画化され、ドラマ、映画化も決まった。
どんな内容に目を付けるのか。「自分をさらけ出しているもの」と木暮さん。「鬼嫁日記」は妻に虐げられる日常をコミカルに描くブログを本にした。「恥ずかしくて言えないようなことを書いているのが面白い」
サイトへのアクセス数で人気がわかり、「売れ行きを予測できるのも強み」という。単行本は1万部売れれば「ヒット」だが、すべて初版1万部以上で売り出した。
東京都港区の「ライブドアパブリッシング」は開業約半年で12冊のネット本を出版した。
同社は幻冬舎との合資で今年2月にできた。幻冬舎から加わった峯晴子編集長(34)は「こんなに面白い人がいるのかと驚いた」とブログを見た印象を語る。今では「才能発掘の場と位置づけている」。「ブログを見てほしい」とメールによる売り込みも増えている。
大手や老舗(しにせ)が手がけるケースも出てきた。ただ慎重な見方もある。中央公論新社は、「今週、妻が浮気します」を出した。妻の浮気を知った会社員のネットでの相談と、参加者とのやりとりをまとめた。「いい内容が偶然ネット上にあっただけ」という。数万部のベストセラーだが、「今後もネットを狙って探す考えはない」。
三省堂書店神田本店は30種類近くを扱うが、担当者は「ネットで面白いからといって本にしてまで読みたいのか。ブームなのか、定着するのか、動向を見たい」と話す。
ネット上で書く大半はプロの作家ではなく、素人だ。「鬼嫁日記」の作者カズマさん(33)は出版を持ちかけられたときは驚いた。
福岡市在住の会社員。4年前、業績悪化で給料が減り、「嫁に小遣いなしにされたこと」がきっかけでブログをはじめた。小遣い稼ぎで趣味のパチンコを熱心に研究し、日々の収支をネットで書き始めた。その中でつづった「嫁」の話が評判になったという。
1日の平均アクセス数は4万5千。コメントも150ほど寄せられる。「リアルタイムに評価される。面白いと言ってもらえるのがうれしくて続けてきた」
出版後も、会社や同僚にブログのことは秘密にしている。印税はすべて「嫁」が管理し、「小遣いなし」の生活も変わっていないそうだ。
「語源ブログ」の著者はシステムエンジニア(32)。「ライブドア」などはやりの言葉の由来を紹介する人気ブログを開く。大学時代にクイズ研究会にいた。豊富な雑学が生きたという。
女子大学生や風俗で働く女性のブログが基となった本も登場している。
「ネット本」の出版で難しいのが、特定が困難な匿名投稿者の著作権の扱いだ。
ヒット作「電車男」は、巨大掲示板「2ちゃんねる」への匿名投稿で作られている。奥付で「無償転載をご了承いただきたく存じます」と断るが、2ちゃんねる上で「著作権侵害」との批判や疑問が相次いだ。版元の新潮社の担当者は、専門家に「現行法ではグレーゾーン」と指摘されたという。
ネット掲示板への投稿を使って本を出した光文社は無断利用などで訴えられ、02年、東京地裁で販売差し止めと損害賠償を命じられた。
発売を見合わせた出版社もある。「バジリコ」と「アスキー」は今年、掲示板を基にした本の出版を、抗議の殺到でそれぞれ中止と延期にした。
投稿時の規約で2次利用の許諾を条件にする場合が多いが、収益の使い道で配慮するケースもある。「今週、妻が浮気します」の投稿を掲載したサイトを運営するオーケイウェブは、印税約500万円の一部をNPOの活動支援に寄付した。