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井上ひさしさん
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■どんなもめごとも ことばの力をつくせばしずまる
東京裁判3部作など日本人の戦争責任と向き合った戯曲に取り組み、護憲を訴える「九条の会」の呼びかけ人も務める作家の井上ひさしさんが、憲法の前文と九条をやわらかなことばで訳した『子どもにつたえる日本国憲法』(絵・いわさきちひろ)を刊行した。「自分に言いきかせるつもりで書いた」文章には、井上さんがとらえた憲法の精神が込められている。
例えば、交戦権を否認した九条の後半はこう書かれている。
「どんな国も自分を守るために/軍隊を持つことができる/けれども私たちは/人間としての勇気をふるいおこして/この国がつづくかぎり/その立場を捨てることにした/どんなもめごとも/筋道をたどってよく考えて/ことばの力をつくせば/かならずしずまると信じるからである/よく考えぬかれたことばこそ/私たちのほんとうの力なのだ/そのために、私たちは戦(いくさ)をする力を/持たないことにする/また、国は戦うことができるという立場も/みとめないことにした」
井上さんは「9年前に執筆を依頼されたときから、どうすれば質を落とさず、でも、自分の子や孫たちの世代が理解できるようにすることができるかと考えた」と話す。
「ちひろさんの描く子どもたちの絵と一緒に載せるということにも影響を受け、幼稚な書き換えでも、偽善者風のやさしさでもなく、自分に言いきかせるつもりで書いたものです。具体的には二重の意味を歴史的に持った漢語を排することと、文脈対応で訳していくことにしました。改めて、大和ことばをつきつめていくことで、日本語の勉強になりました」
「小学生にも読める」分かりやすさを目指し、訳文部分にはすべてルビも振った。ちひろさんの優しく強い絵もふんだんに使われ、絵本のように仕上がった。
「私が憲法に出あったのは、小学校6年生の時でした。敗戦の翌年に憲法が公布され、よく理解できないながらも、この憲法に基づいて生きていけばいいんだという希望と手がかりを与えられたという気がしました。その時の感動を子どもたちに伝えたいと思っています。立場の違う人には批判もあるでしょうが、いま読んでみても、憲法は潔く、勇気にあふれ、文章と思想が一体化した名文です」
井上さんが「人類の歴史からの私たちへの贈り物」ととらえる日本国憲法だが、改憲への動きも進んでいる。「交戦権さえ否定するというのは、人間の究極の理想。世界的にも評価は高く、これ以上いい憲法は生まれないのではないでしょうか」