ここから本文エリア

RSS

現在位置:asahi.com>BOOK>出版ニュース> 記事

出版ニュース

シンポ「一千年目の源氏物語」 「新しさ」解きほぐす

2007年10月10日

 『源氏物語』の存在が初めて記録に現れてから来年で1000年。この「一千年目の源氏物語」をめぐる講演会とシンポジウム(国文学研究資料館主催、朝日新聞社など後援)が先月、東京都立川市で開かれた。作家の丸谷才一さんが、昭和における源氏の発見や20世紀ヨーロッパのモダニズム文学に通じる先進性について語るなど、聴きごたえがあった。

 『紫式部日記』の寛弘5(1008)年11月1日の条で藤原公任(きんとう)が紫式部にたわむれる場面に、「若紫」「源氏」という言葉が出てくる。このことから、宮中で当時すでに源氏物語が読まれていたと推定される。

 丸谷さんは「暗澹(あんたん)たる昭和に功績があったとすれば長くおとしめられていた源氏を華やかにたたえた時代である点だ」と語った。

 「国文学者を除けば源氏は昭和に至るまで蔑視(べっし)され無視されてきた。皇子(みこ)が天子の后(きさき)と恋仲になって子をなし、その子が帝(みかど)になる筋がけしからん、という非文学的な理由によって。明治最高の目利きである鴎外と漱石も源氏に冷淡だった」

 源氏の発見を促したのは20世紀ヨーロッパのモダニズム文学だという。アーサー・ウェイリーの英訳(1925〜33)で、源氏は欧米で『失われた時を求めて』と同じように受け入れられ、読者はプルーストと同じ資質を紫式部に見いだす。ウェイリー訳を国内では正宗白鳥が絶賛し、その影響で谷崎源氏が生まれ、源氏は戦後、日本文学最大の長編小説とされる。

 「源氏には(1)時間を扱う(2)文体の美しさというモダニズム文学に通じる要素があり、千年前の紫式部は現代の読者の心を動かす。小説で大事なのは構成と文体だが、二つを備えた小説はごく少ない。構成と文体について最もよく教えてくれる小説が源氏であり、長編小説の模範だ」

 歌人の岡野弘彦さんは師事した折口信夫の「源氏はいろごのみの道徳を説いた物語」という説を踏まえ、源氏の中で女性が果たす役割についてこう指摘した。

 「源氏は理想的な男性の物語と考えられやすいが、私は女性が多様性をもって生き生きと生きている物語とみる。いろごのみとは理想の異性を選びとることであり、古代からのいろごのみの伝統が平安の華やかな雰囲気を巻き込みながら源氏で新しい展開を見せた」

 たたりをなす六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の造形について「黄泉(よみ)の国を支配したイザナミノミコトに一つの原点を置いてみたい」と指摘したのは興味深かった。

 詩人の大岡信さんが取り上げたのは、第26帖「常夏」などに登場する個性的な脇役の近江の君。粗野で早口で和歌もへただが、憎めない。「道化者的な彼女が登場する個所は長編の中の短編を思わせ、小説全体を引き締める。複雑な構造をもつ源氏は千年の時間差を感じさせず今も新しい」

 NHK番組キャスターの加賀美幸子さんも「源氏は好きな個所から読めば物語がおのずから胸を開いてくれる。出家する女性の多さに着眼するなど、様々な読み方ができる」と語った。

 講演会とシンポジウムの内容を編集した番組が14日午後6時からNHK教育テレビで放映される予定だ。

    ここから広告です

    広告終わり

    このページのトップに戻る