2008年11月12日
保坂和志さん
作家の保坂和志氏の小説論『小説、世界の奏でる音楽』(新潮社)が刊行された。『小説の自由』(05年)『小説の誕生』(06年)の続編で、文芸誌「新潮」に「小説をめぐって」と題して連載した小説論3部作がこれで完結した。5年にわたり「書きながら考えた」軌跡がうかがえる。
〈私の読み方はスポーツの観戦に近い〉と保坂氏は記す。
「かつてはテーマや枠組みを考えるとか窮屈な読み方をしていたが、自分が小説を書くようになってから読み方が違ってきた。小説とは本来、その作品世界にいつまでも浸っていたい芸術。読書にかけた時間の長さが小説を楽しむ基本だが、ひと言でスパッと言う批評ではその量が無視されてしまう。だから3冊という量で言おうと思ったんです」とモチーフを語る。
「小説の言葉は本来、あいまいさを含めて広がりがあるものなのに、軽いことしか伝達できなくなっているのではないか」と話し、逆説的な読み方を紹介する。例えば、オーストリアの作家ヨーゼフ・ロート(1894〜1939)の小説の求心的でない「緩さ」を、柴崎友香氏の『主題歌』の視点の「貧しさ」を肯定的に評価する。
「社会的にネガティブとされる緩さや貧しさや小ささを自覚することが、実は強さになる。かつては小説に新しいものが書けるという進歩史観があったが、今も新しさがあると思うのは状況に対する勘違い。希望があることは、人をゆっくりと考えさせない。静かにすわって考える“たそがれ”から文化が始まる。否定的なようで、実は小説の出番だとも思っているんです」
岡田利規氏の『わたしたちに許された特別な時間の終わり』、川上弘美氏の『真鶴』で試みられた、自我を乗り越えた語りの自由さに可能性を見いだす。
「近代小説は自我を確立し、確かに人物像をしっかりさせた方が書きやすいが、岡田さんや川上さんは自我の輪郭の揺れる小説を書いた。実際、人生は一人で完結するものではなく、親子関係など、誰かに託し、誰かに託されて生きている。自我の揺らぎを描けただけでも十分な達成だと思います。手法も題材も出尽くしたと言われる中で、小説にはなお可能性はあります」(小山内伸)
著者:保坂 和志
出版社:新潮社 価格:¥ 1,995
著者:保坂 和志
出版社:新潮社 価格:¥ 1,995
著者:保坂 和志
出版社:新潮社 価格:¥ 1,785
著者:柴崎 友香
出版社:講談社 価格:¥ 1,365
著者:川上 弘美
出版社:文藝春秋 価格:¥ 1,500