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後世見つめた農民群像 帚木蓬生氏新作、「水神」

2009年10月21日

写真「ファンタジーとしての時代小説への反発もある」と帚木蓬生さん=福岡市中央区

 ヒューマニズムにあふれる作品を世に送り続ける作家の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)さん(62)が、江戸時代の福岡・筑後川流域を舞台にした時代小説『水神(すいじん)』(上下、新潮社)を刊行した。堰(せき)の建設をめぐる農民と武士との魂の交流を描き、公とは何かを鋭く問う。この帚木版「プロジェクトX」は、自らの病と向きあい思索を深めた末の結晶だ。

 「時代小説は多いですが、田舎や百姓がなかなか出てこない。江戸時代の人口の多くは百姓なのに。だったら自分が書くしかない、と」

 主人公は、大河のそばに暮らしながら水不足にあえぐ農民たち。村を救うべく、5人の庄屋が悲願の堰を建設し、水路を張り巡らそうと立ち上がる。だが、久留米藩から出された建設の条件は、工事が失敗したら庄屋全員はりつけという過酷なものだった。

 それでも、庄屋のひとりは言う。〈(水路は)私らが死んだあとも、何十年何百年と流れ続けてくれるじゃろ。私は、それば思うと、もうここで死んでも悔いはなかちいう気持(きもち)にさえ、させらるる〉

 「身命を投げだしてでも誰かがやると言わないと、後の世代がじり貧になる。現代でも同じことだと思います」

 実話を下敷きとしたこの作品の構想は10年ほど前からあったが、地方の農民についての史料が少なく苦労したという。それでも、延べ100点ほどに少しずつあたり、久留米藩の内情や農民の衣食住などを綿密に調べあげた。

 心ある武士の助けも得て、堰の工事は順調に進むかに見えるが、無情にも犠牲が出る。タイトルの「水神」とは誰か。「最初は構想になかった。でも、書き進めるうちに、百姓の苦しみを見つめ、思いをくみ取る存在が必要だと考えるようになりました」

 上巻をほぼ書き上げた昨年夏、急性骨髄性白血病と診断され、半年近くの入院生活を断続的に強いられた。下巻の執筆はひとり、4畳半ほどの無菌室で。その間「神様が与えてくれた休みだと思って、ゆっくりして下さい」といった励ましの便りが多くのファンから届いた。現役の精神科医でもある帚木さんは「半年間だけ専業作家になれました。休んでいると、書きたいことがあふれるほど思い浮かんできましたよ」と笑う。

 次作は、アフガニスタンが舞台の小説。第2次大戦中の軍医を描く短編集なども準備している。健康は取り戻したが、「一作一作が遺言みたいな存在。悔いの残らないように書いていきたい」と語る。(新谷祐一)

表紙画像

水神(上)

著者:帚木 蓬生

出版社:新潮社   価格:¥ 1,575

表紙画像

水神(下)

著者:帚木 蓬生

出版社:新潮社   価格:¥ 1,575

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