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「思想の科学」が映す現代 ダイジェスト版刊行を機にシンポ

2009年11月19日

写真シンポジウムでは、評論家の坪内祐三氏や作家の黒川創氏らも交えて6人が討議した=10月24日、東京都新宿区の早稲田大学で

写真パーティーであいさつに立つ鶴見俊輔氏

写真「思想の科学」の総索引、シンポの記録、ダイジェストの3部作

 在野の思想をもって時代と対抗し続け、96年に終刊になった雑誌「思想の科学」。50年に及んだ歴史を総覧し、全539冊、約1万件の収録論文・記事から2000件余りのエッセンスを収録した『「思想の科学」ダイジェスト 1946〜1996』(思想の科学社)が刊行されたのを機に、このほど東京都内でシンポジウムが開かれた。戦後思想に果たした同誌の役割が改めて討議される中、「今」の抱える問題も見えてきた。

 「思想の科学」はどんな雑誌だったか。論者が共通して指摘したのは自由さだった。

 社会学者の橋爪大三郎・東京工業大学教授は「体制や党派から距離をとり、一つの枠に収まらない多元性をもっていた」と評価。そのうえで「50年前は別だが、自由に考えることは今や誰でもやっている」と語り、「思想の科学には『(私たちには)考えるべき課題がある』という倫理性を引き受けるまじめさがあった。それが次代に受け継がれていないのではないか」と問題提起した。

 動機の問題を問うたのは、高校時代から愛読者だったという上野千鶴子・東京大学教授(社会学)。近年創刊された「ロスジェネ」「フリーターズフリー」などの若者論壇誌を挙げ、「自分の言いたいことを伝えるために、採算性がなくても始まってしまう雑誌がある。終刊するということは、思想の科学が当初持っていたそうした動機が、なくなってしまったということかもしれない」とした。

 思想の科学は、戦後間もない46年、当時23歳だった哲学者の鶴見俊輔氏(87)が丸山真男らと7人の同人で創刊した。終刊と創刊を繰り返し、最後の終刊は第8次。会場からは「第9次」の創刊を望む声も上がった。

 第8次の編集委員を務めた文芸評論家の加藤典洋氏は「一方に雑誌があって、もう一方に思想の科学研究会という集まりがあり、両者の関係ははっきりしない。だから、どこからでもまた始まる可能性がある」と答えた。

 終刊後も研究会は活動を続けている。4年前から会員になっている道場親信・和光大学准教授(社会運動論)はシンポで、思想の科学が各地に読者会を持ち、それが新たな書き手の供給源にもなった点や、中央―支部という関係が内部に持ち込まれなかった点に触れた。「主体(作り手)があって場(雑誌)を作るのではなく、場を作りながら主体が発見されていった。ただ80年代半ば以降は、読者と作り手のフェース・トゥ・フェースの関係性が見えにくくなってきた」

 また、中心を持たないという編集方針とは対照的に、創刊メンバーであり半世紀を通じて物心両面で同誌を支え続けた鶴見氏の存在の大きさも、シンポからは見えてきた。上野氏は「鶴見さんが一種のシンボルとして機能し続けた『鶴見雑誌』だった」と述べ、橋爪氏も「創刊の動機の根本にあったのは戦争の経験だろう。それは鶴見さんに体現されてきた」と評した。高齢の鶴見氏に依存できないことが「第9次」の行方にも影を落としている。

 96年の終刊時には6人が健在だった創刊同人メンバーだが、今は鶴見氏を除いて鬼籍に入っている。シンポで鶴見氏は、客席に座って議論を見守っていた。会場で発言を求められても固辞したが、閉会後のパーティーではあいさつに立ち、こう述べた。

 「思想の科学は六十余年間、除名者なしでやってきた。そういう道を続けていただきたい。『2人になっても続けよう。しかし、2人になっても除名はしない』。お話ししたいのはそれだけです」(樋口大二)

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思想の科学ダイジェスト―1946〜1996

著者:思想の科学五十年史の会

出版社:思想の科学社   価格:¥ 9,975

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思想の科学総索引―1946〜1996

著者:思想の科学研究会・索引の会

出版社:思想の科学社   価格:¥ 22,890

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