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『風の陣』完結 東北の歴史担う蝦夷描く 高橋克彦さんに聞く

2010年10月12日

写真:「もう一作書きたくなった」と話す高橋克彦さん拡大「もう一作書きたくなった」と話す高橋克彦さん

 奥州藤原氏の滅亡などを描いた『炎(ほむら)立つ』などの作品で知られる作家・高橋克彦さんの17年越しのシリーズ『風の陣』が、このほど刊行された5冊目の「裂心篇(へん)」で完結した。主人公は、古代東北で活躍した先住民族・蝦夷(えみし)たち。なぜ、彼らを描こうとしたのか。高橋さんに聞いた。

    ◇

 『風の陣』は蝦夷出身の武人・牡鹿嶋足(おしかの・しまたり)、その友人の物部天鈴(もののべの・てんれい)、伊治鮮麻呂(これはるの・あざまろ)らが主人公だ。749年の陸奥の国での黄金発見から、780年に起きる鮮麻呂の乱までを描く。「大体の終わり方は書き始めた時に決めていた。完結してほっとしたけど、読者も待ちくたびれたと思うね」

 苦労した理由の一つが、登場人物に関する史料がほとんど残っていなかったこと。

 高橋さんは通常、テーマを決めると、史料を読み、取り上げる出来事を取捨選択した後、「再度該当部分の史料を読み込みながら、作品に取り組むことが多い」という。

 「でも、嶋足や鮮麻呂に関しては、叙任の記録くらいしかない。そのせいもあって登場人物、特に鮮麻呂の描き方が難しくなってしまった」

 そこで、「彼らの活躍した奈良時代という時代が、どんな時代だったかということからとらえ直した」という。

 「のどかだったイメージがあるけれど、改めて調べたら、実際には政変が頻発し、政治的にはかなり不安定だったことがわかった。それで、嶋足や鮮麻呂の動きが何となく見えてきたんです」

 今回の『風の陣』以外にも『火怨(かえん)』など、高橋さんには蝦夷を扱った作品が少なくない。「私は岩手県の出身。でも、かつて大学に入学して上京した時、『文化のない東北から出てきた』と言われて、自信喪失してしまったんです。しかし、実際は東北地方には古代以来、立派な文化があった。蝦夷はそんな東北の歴史を担った人たち。彼らを描くことを通じ、東北の本当の姿を知って欲しかった」

 作中には、大和朝廷側の人物が、蝦夷のことを「獣」と表現するくだりが何度も登場する。世界各地でいまなお続く差別的な民族闘争をかいま見るようだ。

 人間は変わらない……ということか。あるいは、それこそが高橋さんが訴えたかったことなのかもしれない。

 「蝦夷ものはしばらくお休みかなっていう感じもしていたんだけど、この前、蝦夷支配の拠点だった多賀城跡(宮城県)を訪れた時、ああ、この場所を舞台に小説を書いてみたいと思った。たとえば、今度は724年にあの城を築いた大和朝廷の按察使(あぜち)・大野東人(おおのの・あづまびと)の視点で。たぶん『風の陣』の前史のような作品になるんじゃないかな」(宮代栄一)

表紙画像

風の陣[裂心篇]

著者:高橋 克彦

出版社:PHP研究所   価格:¥ 1,890

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