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書評

ALS―不動の身体と息する機械 [著]立岩真也

[掲載]2004年12月19日
[評者]最相葉月

 書かれるべき本が、書かれた。障害者運動や安楽死、臓器移植といった倫理問題に対峙(たいじ)してきた社会学者の、やはり、ここが出発点であったかと思った。生きて死ぬことについての最も重要で、最も普遍的な課題が凝縮されているからだ。

 表題は、筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)と人工呼吸器を意味する。ALSは、物理学者のホーキング博士が患っていることで知られる原因不明の難病で、治療法はまだない。ある患者が「永遠に続くカナシバリ」と表現したように、頭脳は明晰(めいせき)なまま体が動かなくなる。食べることも声を出すこともできず、やがて息が苦しくなる。呼吸器をつけて十年以上生きる人はいるが、国内六千人以上の患者の約七割がつけずに亡くなる。

 意識は鮮明なのに息が苦しいなんて怖い。そう思った著者は、安楽死を認めない日本でなぜ呼吸器をつけない(消極的安楽死ではないか)で死ぬことが容認されているのか、生きるのをやめたいと思うほどの状態があるのかを検証する。

 材料は、患者の本(多くがハリーポッターの版元・静山社刊)や患者と家族が作ったホームページの闘病記。足の指やまばたきを使う意思伝達装置で綴(つづ)られたものだけに、これほどの言葉が発信されていたのかと驚かされる。「クオリティー・オブ・ライフ(生活の質)」や「自然な死」といった耳ざわりのいい言葉の背後で棚上げされた問題が、患者と家族だけに沈潜していたことも見えてくる。

 結論は明快だ。人がいて人工呼吸器があれば、自ら死ぬほどの病気ではない。無責任は承知で、それでも生きろと著者はいう。「質のわるい生」に代わるのは「自然な死」ではなく「質のよい生」。呼吸器をつけるか否か、生か死かの選択に患者を立たせている場合ではなく、生きて当然と思える環境を急ぎ整えよと。

 迷い、逡巡(しゅんじゅん)を繰り返す著者のくねくねした文章に誘われ挑発された読者は、それでも射抜くべき的は射抜く姿勢に、安堵(あんど)とかすかな感動さえ覚えるだろう。異論は噴出しそうだが、こんなふうに直言した人は今までいなかっただけに、これはなおさら喫緊の課題と得心した。



関連情報

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    書籍詳細

    表紙画像

    ALS 不動の身体と息する機械

    • 著者: 立岩 真也
    • 出版社: 医学書院
    • ISBN: 4260333771
    • 価格: ¥ 2,940

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