人工生命ペットを題材にしたゲームがヒットし、英国政府から勲章を授与された著者が、脳科学を勉強してロボット製作に取り組んだ。その三年間のプロセスをユーモアたっぷりに書いたのが本書だ。正直いって、本書の中でも参照されている犬のようなロボット「AIBO」を開発した私が、書評に適任かどうかは疑問。あまりにも知りすぎているからだ。
素人の発想は、えてして思い込みとひとりよがりと誇大妄想に満ちている。しかし、なまじっか他人の論文を読んでいないだけに誰も気づかない斬新さを秘めていることもある。
著者の技術レベルは、単なるド素人の域を超えているが、高いとはいえない。出来上がったロボットも、いまいちだ。したがって、帯の「これはロボットではない。新たな生命の創造なのだ!」というコメントは、残念ながら素人の誇大妄想といわざるを得ない。
しかしながら、著者のアプローチの方向性には並々ならぬセンスの良さが光っている。従来のAI(人工知能)や作り込みを排し、脳科学を参考に知能を自己創発しようという試みだ。じつはこれは「認知発達ロボティクス」という新しい分野として立ち上がりつつある。私自身は、ロボット側から脳科学への貢献も含めて「インテリジェンス・ダイナミクス(動的知能学)」と呼ぶことを提唱している。
ところが、この方向性に気付いている研究者は世界的にはまだ少数だ。現実には、一八五億円を浪費した日本の「第五世代コンピュータ」などのプロジェクトが軒並み破綻(はたん)して十年以上たつというのに、相変わらず従来型の記号処理AIが人間を超えると主張する大学者が結構いる。プロの研究者といえども、大多数はおそろしくセンスが悪い。
その中で、著者は独力でこの方向性に気づき、大胆な簡略化の仮説を駆使してともかく物をまとめている。勇気と挑戦者魂が光り、高揚感が伝わってくる本だ。このような偉大なアマチュアが次第に実力をつけて、いつの日か我々プロの研究者をギャフンと言わせる日がくるのかもしれない。くわばら!くわばら!!