飛鳥建築と白鳳伽藍(がらん)の復興に打ち込み、「最後の宮大工」と称された西岡常一棟梁(とうりょう)の人気は没後10年の今日も衰えない。
古代建築の「心と技」を実践した棟梁の独特の語りの魅力をしのぶ人たちが自然と集まって、「西岡常一棟梁の遺徳を語り継ぐ会」も誕生している。
本書の第2部をなす棟梁と一緒に仕事をした瓦師、左官、大工、釘(くぎ)と金物の職人たちの座談会、あるいは2人の子息、薬師寺管長、文化財保護関係者らとのインタビューは、この「語り継ぐ会」の活動の成果の一端である。
第1部は日本経済新聞の「私の履歴書」の転載だ。その29回の連載で意外だったのは、兵卒として日中戦争に何度かかり出されていることだ。ただし命を懸けた戦場でも棟梁は中国の建築の観察を怠らない。
一筋に打ち込んだ一徹者のみが持つ仕事に対するゆるぎなき自信と、社会と人生に対する深い洞察が随所に読みとれる内容だ。