デビュー作『都市伝説セピア』で、いきなり直木賞候補になった朱川湊人の短編集である。『都市伝説セピア』と同じく、ノスタルジックな雰囲気をたたえていて、何とも心地よい。いずれも作者の故郷である大阪を舞台にしていて、主人公たちが少年時代を回想する物語だ。
たとえば表題作の「花まんま」は兄の視点から、妹の誕生と成長が語られる。幼い妹はやがて見ず知らずの土地や名前の話をするようになり、自分は彦根に住んでいた女性の生まれかわりだと告げる。半信半疑のまま、兄と妹は親に内緒で彦根へと旅立つ。そこで二人を迎えたものは? 親と娘の絆(きずな)の強さ、亡くなってもいまだに忘れることのできない死者への思いを切々と訴えて、激しく胸をうつ。
また、「摩訶不思議(まかふしぎ)」は、ぐうたらな、でも愛すべき叔父が死に、葬儀の途中で起きる摩訶不思議な事件の顛末(てんまつ)を甥(おい)にあたる少年が語る。“人生はタコヤキやで”とうそぶく叔父や調子のいい父親をはじめ、愛人たちのキャラクターも抜群。入り乱れる人間関係を、まるで松竹新喜劇のようなドタバタ仕立てにして大いに笑わせ、見事な幕切れへと向かう。
その喜劇的筆致は、病で苦しむ者たちをあの世に送る「送りん婆」でも発揮され、恐怖と笑いの配分が絶妙だし、その一方で、在日の少年との友情を描いた「トカビの夜」、少年が墓地で女性と親しくなる「凍蝶(いてちょう)」では、孤独な心象を、怪獣や不気味な蝶のイメージに重ねて独特の叙情を生み出している。また、妖精と少女の人生の関(かか)わりを捉(とら)えた「妖精生物」では、苦く悲しい現実を厳しく見せて、ラスト一行でどきりとさせる。
前作のときは、やや着地に弱さがあり、もうひとつ作品世界が際立たないうらみがあったが、今回は驚くほど腕をあげて目配りも十分。鮮やかでありながら、決して技巧に走ることなく、あくまでも、生きることの喜び、辛(つら)さ、哀(かな)しさなどを掬(すく)いあげる幕切れになっている。
ここには、譬(たと)えるなら、宮部みゆき的な人知を超えたものとの不思議な交感と情愛、重松清的なエモーショナルな盛り上がりがある。今年の収穫の一冊だろう。