かつて日本の産業界では、アメリカ流の成果主義(個人の業績が報酬に直接反映する人事システム)が企業を活性化すると固く信じられていた。ところが、それを導入した企業が軒並みおかしくなり、「何か変だぞ!」と感じていたときに前著『虚妄の成果主義』が出版された。
その本で著者は、単純な「賃金による動機づけ」は科学的根拠のない迷信、と切り捨て、古臭いと思われていた日本型年功制が、いかに優れていたかを力説した。つまり、賃金は生活を保証し、「仕事の報酬が次の仕事」という動機づけがうまく機能していたという。
本書はその続編であり、成果主義の対極にある日本型年功制の本質が「人を育てる経営」だと看破している。それは、たとえ短期的な業績を犠牲にしてでも、次の世代の経営者を命がけで育てるという強い決意をさし、単なる人材育成とは違う。この日本の経営の伝統的な本質が最もうまく機能するように、長年かけて工夫し、はぐくんできた結果が年功制なのだ。安直に最高経営責任者(CEO)を外部から引っ張ってくるアメリカ型経営とは、根本的に違う。
成果主義の導入により、この「育てる経営」が徹底的に破壊されたという。たとえば、育てる経営の基本機能の中に「やり過ごし」がある。上司の指示を自らの責任において無視することにより、判断力を養っていくのだ。やり過ごしのできない部下は無能なのだ。ついでに言うと指示を無視されて怒り狂う上司も無能だ。育てる経営とは、随所にそういった非合理性に支えられている。それが、すべて合理的でないと気がすまない成果主義では生き延びられないのだ。
現場を知らない経営者たちが、現場を知らないコンサルタント会社の能書きを鵜呑(うの)みにして、成果主義を導入し、多くの会社を破滅に導いてしまった。「もう自分の頭で考えましょうよ」と叫ぶ著者の言葉は、41年余を大企業の中で過ごしてきた私の心を深くゆさぶる。
復古主義の香りはするが、企業経営の本質を鋭くついており、日本中のすべての経営者に読んでもらいたい名著だ。