今も広島の街には、60年前の走行中に被爆したチンチン電車が走っている。あの日、あの時、被爆した路面電車は70両を数えたという。その運転士と車掌のおよそ7割が14〜17歳の女学生だった。
この知られざる過去にどのような事実が隠されていたのか。本書は、その歴史を掘り起こし、戦争というものの真実を教えてくれる。車掌や運転士であり、女学生でもあった少女たちのヒロシマを追ったドキュメンタリーである。
貧しい家に生まれたから、女だからという理由で、小学校を終えたらそれ以上の学校に行けない。そんな少女がたくさんいた。自分も女学校に行きたい。親に頼んでも、村で女学校に行けるのは医者の娘くらい、「ぜいたくさせてはいかん」と反対された。学校に行くことが、希望だった。
そういう時代に、働きながら学び、給料ももらえる女学校が誕生した。今ではその存在さえ忘れられた、広島電鉄家政女学校である。
戦争中、男たちが徴兵にとられ、運転士や車掌が不足した。その空席を埋めるべく、電車の仕事を少女たちに教え、業務につかせる。そのために、敗戦までのわずか2年半の間だけ存在した「幻の女学校」である。
誰が生徒であったのかもわからない学校の歴史を繙(ひもと)くために、著者の一人、堀川惠子さんは、懸命に当時の名簿を捜す。電車会社の倉庫に堆(うずたか)く積まれた段ボール箱。山のような古い書類の中から数日がかりで名簿を探し当てる。この発見によって、古い電車と少女たちと現代がつながっていく。
どんな生徒がいたのか。何を学び、どんな仕事をしたのか。そして、あの8月6日は、少女たちにとってどんな一日だったのか。戦後をどう生きてきたのか。
もっと学びたい。その希望が閃光(せんこう)とともに一瞬に消え去ってしまった。戦争やヒロシマを語り継ぐことの意味を考えるためにも、必要な一冊である。この本を手に取る人にはぜひ、少女たちの目に焼きついた「地獄絵」から目をそらすことなく、ヒロシマと向き合ってほしい。