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[掲載]2005年08月21日[評者]佐柄木俊郎
「人間は誰でも、心の中に追憶の映画館を持つ」は、本書の一文にある、なかにし礼氏の言葉。その心のフィルムの残像が、はるかな時を超えて、再び男女の人生の交錯を紡ぎ出した、大人のメルヘンである。
ひと夏だけの教育実習にやってきた年上の女性に思慕の念を抱き、忘れ得なかった当時九歳の少年が、五十九年後、偶然に視(み)た古いテレビ番組の再放送でその名に思い当たる。「もしや」と書き送ったことで始まった二人の往復書簡と、やりとりを見守る友人知人たちのエールで構成された、情感あふれる読み物だ。
彼女が記していた当時の日記がみつかり、懐かしい学校生活のあれこれや級友、教師たちの情景が手紙のたびに蘇(よみがえ)る。そして六十年ぶりの邂逅(かいこう)。少年は、いま七十歳を超えた映画作家の岩佐。教生は、十歳年上の歌人にして児童文学者の川口。昭和十九年。かくも自由で豊かな教育現場がこの国にあったことに驚く。
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