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書評

飄々楽学 [著]大沢文夫

[掲載]2005年08月28日
[評者]渡辺政隆

 日本の大学は、文系が七割で理系は三割だという。理系と文系のコース分けは高校から始まり、近年の高校進学率は97%前後ときわめて高いことを考えると、この割合は日本全体でもあてはまるのかもしれない。エンジニアの苦闘と成功を描く「プロジェクトX」が一部で高い人気を得ているようだが、日本全体から見れば、理系はしょせんマイナーなのだ。ということはつまり、日本人の大半は、科学者や技術者と身近に接することがないわけである。それでは、理系の研究者は変人でオタクっぽいというイメージが生まれるのも宜(むべ)なるかなである。

 理系研究者が、一般論として薄給に甘んじながら困難な研究に勤(いそ)しむのはなぜなのか。文系人間から見れば、これほど不思議なことはないだろう。

 理系人間に対するそんな不思議を解消したい人に絶対お勧めなのがこの本。ぼくもこれまで、さまざまな研究者の自伝や評伝を読んできたが、理系の研究についてこれほど楽しそうに語っている本は初めてである。まさに書名どおり、飄々(ひょうひょう)として科学を楽しんできたことがよく伝わってくる。もちろん、理系人間にもお勧めである。

 著者は、物理学から生物学に関心を広げ、生物物理学という新しい分野を切り開いてきた。いや、物理学から出発してゾウリムシの「自発性」にまで手を広げた研究者とでも言ったほうが、興味が湧(わ)くかもしれない。門下からも多才な人材を輩出し、その放牧的教育方針から、「大沢牧場」の異名もある。

 本書中には取っつきにくいタンパク質名なども頻出するが、細部などは読み飛ばし、著者の関心がいかに広がり、人との出会いがどのような発見を導いてきたか、そうした偶然と必然とによって新しい研究領域がダイナミックに切り開かれてきたドラマを楽しむのが正解。

 それにしても、半世紀前の科学は時間の流れも人と金の動きもじつに鷹揚(おうよう)だったことがよくわかる。便利さとスピードを生み出した科学技術の成果は、逆に研究そのものの性格まで変えてしまったのだ。時代の証言としても貴重である。



関連情報

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    書籍詳細

    表紙画像

    飄々楽学—新しい学問はこうして生まれつづける

    • 著者: 大沢 文夫
    • 出版社: 白日社
    • ISBN: 4891731141
    • 価格: ¥ 2,520

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