本書は、西部劇でおなじみのアメリカ・インディアンが、じつはアメリカ建国や合衆国憲法に多大な影響を与え、その後のフランス革命をはじめとする世界の民主化のルーツになっており、さらには、戦後の日本国憲法へつながっているという内容。人種差別の激しいアメリカでこのことは極端に抑圧されてきたので、一般常識とは違うが、近年アメリカ人の間でも、見直しが進んでいる。
12世紀、戦乱のたえなかった先住民・インディアンの5部族を、ピースメーカーという名の男が苦難の末にまとめあげた。その「イロコイ連邦」の社会・政治のシステムを記述したのが精緻(せいち)な117項目の「大いなる平和の法」。徹底した人民主権、自由と平等の精神、言論の自由、婦人や子供も含めた参政権、部族ごとの自治権、信教の自由、文民統制、二院制、大統領制などが含まれている。
その後、アメリカ大陸を訪れた多くの探検家がもたらしたイロコイ社会の情報は、王と教会の圧政に苦しむヨーロッパ人の心をとらえ、「気高い未開人」という概念が定着していった。英国のトマス・モアは、その伝聞をもとに王や特権階級による圧政のない自由・平等な理想社会を『ユートピア』に書いた。ヨーロッパで起こった啓蒙(けいもう)主義思想は、まさにその底流の上に構築された。『社会契約論』を著したジャン・ジャック・ルソーは、インディアンを手本と言い切っている。
アメリカ建国は啓蒙思想を基に、さらにフランクリンやジェファーソンなどのイロコイ情報通の主導で進んだ。イロコイ側の伝承ではイロコイ人に「手を引かれるように」と表現されている。
著者は、そのイロコイ思想が日本国憲法制定に大きく影響したと主張。たしかに精神は受け継がれてはいるが、制定に関与した人たちは直接的にはイロコイを意識しておらず、この点は微妙。
ただし、会議の冒頭ですべて自然に感謝し、7世代後まで配慮するインディアンの精神は先進国の民主主義には引き継がれなかった。政治・社会の混迷の中、民主主義を抜本から見直し、次の政治体制を考える上で見逃せない好著。