とっつきにくい法律書のような書名だが、どっこい、むしろ「柔らか本」だ。音楽、文学から遺伝子科学、商品のブランドまでとりあげる話題が幅広く、面白い挿話が満載で、読み始めたらぐいぐい引き込まれてしまう。何でも「知的財産」として私有化し、ビジネスにしてしまう企業社会やグローバリズムへの問いかけをはらんだ、警世の書でもある。
挿話を二、三あげれば▼有名な「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー」はいまやワーナー・ミュージック社の所有物で、公的な場所で歌うにはライセンス契約が必要▼モンサント社製の遺伝子組み換え植物の花粉が風に運ばれて受粉してしまったカナダの農場主が「特許侵害だ」と訴えられた▼自分の昔の曲の著作権侵害で訴えられたギタリストがいる▼特異な白血病患者の担当医が、彼の脾臓(ひぞう)から得た遺伝情報でひそかに特許をとり、製薬会社から巨額報酬を得た。それを知った患者が訴えたが敗訴、等々。
「ものづくり」から付加価値の高い「知」や「ソフト」重視へ、の掛け声とともに、先進諸国では近年、特許権や商標、著作権など知的財産権の保護が急速に強化され、企業による文化や技術の囲い込みが進む。しかし、それは芸術でも科学の分野でも、かえって創造性を奪うのではないか。できるだけ「コモンズ」(公共の資源)にしていくほうが、社会の進歩や民主主義の成熟につながるのではないか。これが本書のメッセージだ。
著者はアイオワ大学で知財法制などを教える教員だが、70年生まれというから、まだ30代。ヒップホップなどを中心とした音楽評論家でもあり、特にデジタルサンプリングなど、音楽分野の話題が実に豊富だ。合衆国国歌の「星条旗」が18世紀の英国の俗な流行歌の無断借用だとの指摘は笑わせる。
本文中の「表現の自由」の文言には必ず(R)がついている。著者が98年に特許商標局で「FREEDOM OF EXPRESSION」を商標登録した印なのだが、それは「文化の商品化、私有化」への半ばおふざけ的抗議行動。営利目的でなければ「いつでも使ってもらっていい」のだ。