私たちが思想を必要とするのは、いったいどのような場面におかれたときだろうか。テロ防止はわかるけど、監視カメラはちょっと。競争もしかたないが、増えるニートも心配……従来の言葉で表現するにはしっくりこない不安や怖(おそ)れ。先を見通せないいらだち。自分たちの立ち位置さえわからない不確かさ。こうした曖昧(あいまい)な危うさの意識に加え、これまでとは違う、何かが確実に変わってきているという実感が伴うとき、そこに新たな言葉を与える思想が求められる。本書は、「9・11」以後の世界の変化を、これまでとは異なる「管理社会」の到来と見なし、それを「ポストモダン」の思想によって読み解く試みである。
カギ括弧をつけた三つの言葉を並べてみると、なにやら難解な用語の詰まった現代思想の書物を思い浮かべるかも知れない。だが、心配は無用。ポストモダン思想のわかりやすい復習もかねて、一歩先の見通しを示すのが本書である。
「大きな物語は終わった」のリオタール。「リゾーム」概念のドゥルーズ。「脱構築」を説いたデリダ。「モダンな規律社会」に迫ったフーコー。「差異の戯れ」を謳(うた)い、ニヒリズムと相対主義に陥ったかに見えるこれらポストモダンの思想を、流行時の読み取りの問題点を明解に解説した上で、著者は、何が今問われるべきかを明かす道具立てとして読み直していく。
私たちはどんな時代に向かっているのか。読み解くためのキーワードは、自由と管理である。ローティ、ジジェク、ネグリとハートといった思想家のアイデアをおさえつつ、自由の拡大を求めるがゆえに、安全を確保し、管理を強めていく現代社会の逆説を解く。テロへの恐怖から受け入れた監視の強化。自由競争がもたらす格差拡大。それらの延長線上で、自由が奪われる「統制管理社会」へと向かうのか。それとも、管理のからくりを明らかにした上で、自由との調和をもたらす「管理自由社会」へと向かうのか。新たな言葉を得ることで、管理社会にどう立ち向かえばいいのかを教えてくれる。格好の現代思想入門書である。