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書評

靖国問題の原点 [著]三土修平

[掲載]2005年10月16日
[評者]宮崎哲弥

 「靖国問題」を主題とする本は数多(あまた)出版されているが、特定イデオロギーに染め抜かれた、「内輪」向けの論考ばかり。読むに値しないものが殆(ほとん)どである。

 断言するが、近年上梓(じょうし)された夥(おびただ)しい靖国関連書のなかで、読むに足る内容を備えているのは本書のみである。

 まず、この問題を論じる際、必ず持ち出される「政教分離」と「戦争責任」。本書はこの二つを金科玉条としない。

 「政教分離」は各国の歴史的事情によって様々なかたちがあるという。例えば、関東大震災と東京大空襲の犠牲者の追悼施設「東京都慰霊堂」は、都の所有と管理の下にある。ところが春秋の慰霊祭は仏式で執り行われる。「政教分離」は杓子定規(しゃくしじょうぎ)に適用されていないのである。

 「戦争責任」に関しても、右の「謀略史観」、左の「せっかく史観」に基づく議論は、戦後社会のリアルな変化を冷静に認識する妨げになっていると批判する。

 ちなみに「謀略史観」とは、GHQが押しつけた政策によって戦後日本は骨抜きにされたという立場。「せっかく史観」とは、戦後改革でせっかく民主的、平和的な国へと歩み出したのに、反動勢力の策謀でなし崩しに右傾化が進んでしまったという立場である。

 これらの思潮が、問題の本質を隠蔽(いんぺい)し、解決の緒を見失わせた。

 靖国神社は奇妙な両棲(りょうせい)動物である。伝統的な神道に由来する「宗教性」と近代国家の原則に由来する「公共性」とを併せ持つ。これこそ靖国神社創建以来の最大の矛盾であり、強みである。大方の賛否の論がその罠(わな)に嵌(はま)り、二重拘束(ダブルバインド)に陥っているが、本書は構造を解き明かす。

 それを踏まえ、GHQの「神道指令」に関する通説を覆す第六章は圧巻。靖国神社はあえて民間の宗教法人になる方途を選んだのである。しかし、そのことで一層矛盾は激化し、蟠(わだかま)りは硬結した。

 戦後の早い段階で、靖国神社自体を非宗教的施設へと脱皮させていれば、今日のような混迷を迎えることがなかっただろうという著者の見解に賛同しつつ、そんな抜本改革ができないのがこの国の宿痾(しゅくあ)なのだ、という苦い思いに囚(とら)われた。



関連情報

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    書籍詳細

    表紙画像

    靖国問題の原点

    • 著者: 三土 修平
    • 出版社: 日本評論社
    • ISBN: 4535584532
    • 価格: ¥ 1,575

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