2005年11月02日13時03分のアサヒ・コム
		アサヒ・コムBOOKこのサイトの使い方へ検索へジャンプメインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

 » asahi.comツールバー: 検索機能がアップ

  

 » プーシキン美術館展: モネ、ルノワール、マティス、ピカソ…

メインメニューをとばして、本文エリアへ朝日新聞社からアスパラクラブクラブA&A携帯サービスWeb朝日新聞サイトマップ文字拡大・音声

天気住まい就職・転職BOOK健康愛車教育サイエンスデジタルトラベル囲碁将棋社説コラムショッピングbe

ここから本文エリア現在位置asahi.comトップ >  BOOK > 書評 > 小池昌代記事

書評

黄色い雨 [著]フリオ・リャマサーレス

[掲載]2005年10月30日
[評者]小池昌代

 いい小説だ。人が生きる空間の幅と深さを、とてつもない言葉の力で押し広げる。読み終わったあと、虚脱感と充実が同時にやってきて、自分の足裏の底がぬけた。それでいて、いまここにいる自分自身が、底のほうから力強くあたたかく抱きとめられたようでもある。誰によって? 死者たちによって。

 間近に迫った自分の死を、静かに迎え入れようとしている男。彼はアイニェーリェ村という廃村に、ひとり取り残され、長い年月、超絶した孤独のなかで生きてきた。自分が死ねばベルブーサの村から男たちがやってくる。誰もいなくなった村を荒らしにくるだろう。

 男のなかから記憶の川があふれだす。祖父が死に両親が死に、長く知った人々、そして息子が、村を、自分を、見捨てていったときの哀(かな)しみ。妻ザビーナとふたり取り残された後、その妻も神経を病み、厳寒の十二月、雪のふる夜、粉挽(ひ)き小屋で首をつる。使われたロープは、果樹園を荒らしたイノシシを銃で撃ち殺したあと、玄関の梁(はり)に吊(つる)すために使ったものだ。一度は投げ捨てたそれが、春がきて、再び雪の下から現れたとき、男はロープをザビーナの魂として、自分の腰に巻きつける。彼の傍らには名前のない雌犬が、みすぼらしい「神」のようにいつもつきそっている。その犬のために取っておいた最後の弾で犬を見おくったあと、男はいよいよ死を待つ準備をする。

 彼の周りに現れてくる死者たち。母親やザビーナ、四歳で死んだ子サラ、戦争で消息を絶った長男。彼らは言葉で語らないが、確かにそこにいるように感じられる。そして男はまだ生きているのに、肉体の輪郭は解かれつつあり、中空に漂う魂ひとつのような存在感で、私たち読者に語りかける。

 タイトルの「黄色い雨」とは、秋の空からふりしきるポプラの色づいた枯れ葉であり、生と死のあわいを濡(ぬ)らす幻影の時雨でもある。著者は詩を書いていて、のちに散文に移った。土と血の臭(にお)いを伝える濃厚な文章。刺すような哀しみと、自意識のない透明感がすばらしい。言葉を失う小説である。



関連情報

    ここから広告です 広告終わり

    書籍詳細

    表紙画像

    黄色い雨

    • 著者: フリオ リャマサーレス
    • 出版社: ソニーマガジンズ
    • ISBN: 478972512X
    • 価格: ¥ 1,785

    別ウインドウで開きますこの本を購入する ヘルプ

    powered by amazon.co.jp

     
    ここから検索メニュー

    検索 使い方

    検索メニュー終わり

    朝日新聞サービス

    ここから広告です
    広告終わり

    BOOK おすすめレビュー

    売れ筋ランキング 一覧

    涼宮ハルヒの分裂

    BOOK サイトマップ



    powered by amazon.co.jp
    ▲このページのトップに戻る

    asahi.comトップ社会スポーツビジネス暮らし政治国際文化・芸能ENGLISHマイタウン

    ニュースの詳細は朝日新聞紙面で。» インターネットで購読申し込み
    asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
    | 朝日新聞社から | サイトポリシー | 個人情報 | 著作権 | リンク| 広告掲載 | お問い合わせ・ヘルプ |
    Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.