本書は、戦後日本の経済政策の形成に枢要な役割を果たしてきた宮崎勇氏のインタビューの記録である。
氏は戦後大学卒業とともに経済安定本部に入り、傾斜生産方式の運営に携わったのを始めとして、経済企画庁で所得倍増計画の作成、高度成長時代の『経済白書』の執筆、石油ショック時代と初期サミットにおける国際交渉、退官後の構造改革プランへの参画、村山内閣への入閣など、日本経済の戦後史のあらゆる局面で、要になる現場にいた。氏の精密な記憶力と正確な表現力、バランスのとれた評価、情緒を排した語り口は、インタビュアー(中村隆英氏ら)の用意周到な問いと相まって、この本をオーラルヒストリーとして価値ある作品に仕上げた。戦後経済史を学ぶのに必読書となるだろう。
だが評者は、この本に単なる歴史の当事者の証言、記録にとどまらない現在的な価値のあることも感じた。一つは制度改革と安定的なマクロ経済運営はお互いに補い合う関係にあり、どちらか二者択一の関係というわけではない、という氏の洞察である。最近英国の「エコノミスト」誌が展望したように、失われた十年来の漸増的な(インクレメンタル)改革が累積して、日本は新しい安定的な成長軌道を可能にしうるような制度変化を成し遂げつつある。これをさらに推し進めるには、残る大きな問題である財政と社会保障の改革を、きちんとしたマクロ予測にもとづいて処理することが必要だ。氏は90年代央における景気回復が、性急な財政改革の試みによって挫折したことを痛恨の念を持って回顧するが、それは政治家に対し正確な情報を伝達せず、ミスリードした財政当局に責(せめ)があったとみる。
本書は氏の国際協調への熱情をも明らかにする。軍縮へのエコノミストとしてのかかわり、中国の経済学者や政策当局者との持続的な交流、OBサミットの運営など、その活躍は多岐にわたるが、かつて特攻隊員を教官として送り出したという辛(つら)い経験が原点にあるのだろう。国際協調を前提とした愛国心を「新世紀のエコノミスト」に望むとき、沈着冷静をもって鳴る氏の言葉は熱を帯びる。